クトー山へ

 宿で一晩休んだ二人は、早朝からクトーの山に登りに行く。


 クトー山は乾いた岩山。草木も生えぬ裸山。その頂は雲より高い。

 目指す王墓は山の中腹。ホラインとダーバイルが山道に入ったところ、昨日の老人が後ろから呼び止めた。


「おおい、待て! 待ってくれ!」


 ホラインは足を止め、老人をかえりみる。


「いかがなされた?」


 追いついた老人は、息も切れ切れ。会話をするどころではない様子。

 ホラインは困った顔で断りを入れた。


「ご忠告は確かに聞いた。だがそれでも止めてくれるな。無謀、愚かとののしられても、私たちは冒険家。なぞがあるなら追わねばならぬ」


 老人はようやく息を整えて、かすれた声をしぼり出す。


「そうじゃない。ワシも連れていってくれ」


 どういう事かと驚くホライン。

 ダーバイルは嫌な顔をして、老人に言う。


「分け前が減るのはごめんこうむるぜ。じいさんはじいさんらしく、無理をせずに休んでな」

「宝などいらん!」


 大声で即答した老人に、ホラインは事情を聞く。


「目的は何なのだ?」

「話せば長い。道々語ろう」


 老人は頼りない足取りで、よろよろと山を登る。

 ホラインとダーバイルは顔を見合わせ、肩をすくめて老人の後に続いた。



 老人は山道を登る合間合間に休憩をはさみつつ語る。


「あれはまだワシが子どもの頃のこと、幼なじみの友人がいた」

「家がとなりということもあり、ワシらは双子の兄弟のように育った」

「ワシらが十二になった時……何げない会話から、二人で王墓に行こうという話になった」

「度胸試しのつもりだった。友人が先に王墓に入った。その瞬間、彼は倒れて動かなんようになった」

「ワシは怖くなり、友人を置いて逃げ帰った……」


 老人の語り口は後悔に満ち満ちていた。



 やがて一行はクトー山の中腹の王墓に着いた。

 山肌をくり抜いた洞窟に、大神殿もかくやという巨大な遺跡が埋まっている。

 そこから地上を見下ろせば、ダルフの国を一望できる。いかにも王墓にふさわしい見事な景観。


「こりゃいかにもお宝が眠ってそうだ」


 ダーバイルは欲気に駆られ、ホラインも老人も置いて、先に王墓に踏み入った。


「やれ、しょうのない奴だ。ご老人、あなたは何を知りたいのだ」


 ホラインは老人に話の続きを促した。

 老人は弱々しく言う。


「友人を殺した呪いの正体が何なのか。それが知りたい。危険は承知。ワシはもう十分生きた。死ぬ覚悟はできておる」


 ホラインは胸を叩いて答えたり。


「あい分かった。ともになぞを解き明かそう」

「ありがたい。これでもう未練はない」

「不吉なことをおっしゃるな。この私がついている。この目が光っている内は、むざむざ人を死なせはせぬ」

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