王の器

 何だ何だと注目の中、ベレトの王はラビターンに最初の願いを口にした。


「一つ目は金貨一万枚が良い」


 これには誰もが驚いた。ホラインも、ダーバイルも、願いを聞く魔神さえもが。


「一国の王ともあろう人間が、たったの金貨一万枚? 魂をかけて本当にそれで良いのか?」

「うむ、良いぞ。王に二言はありはせぬ」


 一方で家臣たちは大慌て。「お考え直しを」とただひたすらに訴える者あれば、気でも狂ったのかとなげく者もあり、国の未来を悲観して失神する者もあり。

 ざわめきの中でラビターンは王の願いを即叶える。


「それならば確かにここに」


 ラビターンが袖を振れば、金貨がバラバラこぼれ出す。


「どうぞ一万きっかりだ。疑うならば数えるが良い」

「うむ。みなの者、不足ないか数えてみよ」


 兵士たちも大臣も、王の命令で泣く泣く金貨を数え出す。そのこっけいさにラビターンは大笑い。みなして数え終えたら、また泣き出す。何度数えても一万枚。過不足なし。


 なげいてばかりの家臣たちにも構わずに、ベレトの王はラビターンに言う。


「二つ目の願いを言おう。ラビターン、それはそなたを人にすること」

「今、何と?」


 耳を疑うラビターンに、王は冷たく言い放つ。


「願いは言った。とく叶えよ」

「いや、それは……」

「できぬと申すか?」


 ラビターンは弱った顔になって言う。


「私が人になってしまえば、悪魔の力も無くなるぞ。三つ目の願いは叶わない」

「構わぬよ。人に魔法は使えない。神話の時代は終わったのじゃ」

「人の王、よく考えよ。悪魔の力は、もしもの時に役に立つ。人生とは、いつ何時なんどき何が起こるか、わからぬものだ。いくら祈りをささげても、神とやらは報いてくれぬが、悪魔は違う。愚かさを捨て、賢く生きよ」

「君子危うきに近寄らず。残念じゃが、ワシに悪魔を召し抱える度量はない。ワシに会ったが運の尽き」


 王の答えに家臣たちは安心し、ホッと胸をなで下ろす。ホラインもため息をつき脱力した。

 ラビターンは眉間にしわ寄せ悔しがる。


「むむむむむ……こうも時代は変わったのか。人間とはもっと強欲で後先も考えられぬ生き物だったはずなのだが」

「そなたのような邪悪なものを野放しにしていては、世は乱れ、人は理性を失うじゃろう。二度と悪さをせぬように、人の身でワシに仕えるがよい」


 こうしてラビターンは魔神から人になり、地上から悪魔が一匹消え去った。

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