第81話 決闘(3)
「おらぁぁぁぁあああああ―――――――!!!」
咆哮と共に狼の如き勢いで
小刻みな
さっきは不意を突かれたが、まだ負けたわけじゃない。
そう、ガルバーは恐れが迫ってきている自身の心に喝を入れると、ギラギラと殺気立った目を輝かせてナイフを鋭く差し込んでいく。
だが、いくら気合いを入れても、目の前に立ちはだかる冒険者を捻じ伏せるには程遠かった。
「まだまだ遅いな」
「チッ……クソったれが……!!」
淡々とナイフを受け続けるイツキを見て、ガルバーが焦りを表情に滲ませながら舌打ちをする。
細やかなフェイントも惑わすような
じりじりとした焦燥感。その形容しがたい感覚が、それまで猪突猛進だった狼の手足を鈍らせていった。
「ふっ――――――――!!」
ガルバーが途切れなく放つ鋭いナイフの切っ先をそつなく躱しつつ、今度はイツキが反撃に転じた。
反応の速さでは他の追随を許さないアドバンテージを十二分に発揮し、先読みのしづらい
理に適ったお手本通りの攻め方だ。
「クソが……ッ!オレより速ぇだと……!?」
一瞬で適応してきた冒険者の動きを見て、途端にガルバーの表情が驚愕と苦々しさに染まった。
獣の狩り同様、先手必勝かつ一撃必殺の戦法なのだ。
しかし、そんなわかりきった弱点をそのまま残しておくわけもなく、
それをたった数回の競り合いだけで見抜くイツキが異常なのだ。
「これでも速さと反応速度には少し自信があってな。並大抵の
「どうやらそうみてぇだな………認めるぜ、てめぇは強ぇ」
普通の
だが、ここにいるのは異端の
冒険者相手に逃げる?笑わせんじゃねぇ!!
ガルバーの中に“逃げ”という選択肢はもとより、正面から捻じ伏せる以外の考えは毛頭なかった。
「けどな……オレはまだ負けるつもりはねぇぞッ!!」
ガルバーは不敵な笑みを浮かべると後方へと距離を取りながら、自身の魔力全てを足元へと集中させた。
簡単な話だ。
速度で負けてるならば、もっと速くなればいい。
魔力の集中したガルバーの足首より下が淡く薄緑色に輝き、薄手の狩装束の内側に身に付けていた
「ほう……まためずらしいモノを使っているな」
ガルバーの装着している
魔力に応じて装着者の走力を劇的に向上させる能力を持つ
骨董品とまでは言わないが、
「こいつと出会った時は衝撃的だったぜ……世界には頭のおかしいことを考え付くヤツがいるもんだってなぁ……!!」
「まったく物好きな奴だ……その欠陥品を愛用している輩がまだいたとは驚きだな」
「欠陥品……?ハハッ!たしかにこいつぁ欠陥品だ!じゃじゃ馬みてぇに言うことを聞きやしねぇからな」
冒険者向けに造られた
とにかく速い。
いや、あまりにも速すぎた。
回路を造り上げた幼少期時代の“エルネストリアの魔術師”レナエルが「お試しの失敗作だった」と口にするほど、当時の常識を覆す劇的な速度上昇を実現していた。
だが、すぐに廃品となると思いきや、『物理的に世界がひっくり返る』『履く前に天に祈りを捧げておけ』『モルモットの気分を味わえる最高の
「つまり、お前も吹き飛んでいきたいという変わった性癖を持っているわけか……人は見た目によらないな」
「んわけあるかッ!!気持ち悪りぃモグラ共と一緒にすんじゃねぇ!!」
イツキの的外れな分析に、ガルバーが怒り心頭な様子で言い返す。
たしかに
しかし、性能に関しては一級品。使いこなせば大きな武器になる。それこそ英雄とも肩を並べる速度を手にすることができるほどに。
「ハッ!オレは勝つためにこいつを使ってんだよッ!!!」
ガルバーの脚から強烈な風が巻き起こる。
吹き荒ぶ疾風が周囲の木々を力強く揺らし、大森林の中をさざめきが駆け抜けていった。
魔法嫌いで有名な
ここで情けなく負けを晒すわけにはいかない。
「どうだ!これで、てめぇよりは速くなっただろうが……!」
「そう思うのなら存分に試せばいい」
「あぁ……言われなくても、てめぇの鬱陶しい態度を心置きなく叩き潰してやるよッ!!」
全速前進、全力全開。
ガルバーは最初から出し惜しみをせずに、魔力の大半を
そして、相変わらず無表情なまま悠々と短剣を構える冒険者へ目掛けて、疾風を纏った狼が食らい付くように飛び掛かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます