第29話 冒険者たる者
ジョーとシンによって無事
本来なら
レナエルはゴルドルグの攻撃から庇ってもらったイツキを心配そうに見つめた。
「イ、イツキ、大丈夫かい?」
「この程度大したことはない。少しすれば体も自由に動くようになる。俺は大抵の状態異常に耐性があるからな。お前こそ異変はないか?」
「……あ、うん、平気みたいだ。きっと君がくれた指輪のおかげさ」
レナエルは自分の体に異常がないのを確認すると、イツキに貰った指輪をまじまじと見つめた。
ゴルドルグが放った呪いは各種状態異常を引き起こす厄介な代物だ。頑丈な岩石の鎧を破壊すると呪いが溢れ出す、という面倒な二段構えになっている。
耐性を持つイツキはともかく、ただの一般人であるレナエルは何らかの呪いを浴びてしまっているはずなのだが、何も起きていない。ということは、イツキから渡された桔梗色の指輪が守ってくれたのだ。
「おう、チビ助、大丈夫か?」
「イツキは……まあ心配するだけ無駄ですね」
周辺の魔物も掃討し終えたジョーとシンが、広間で休んでいる二人の元へと戻ってくる。
レナエルは二人の姿を見付けると、座ったまま申し訳なさそうに頭を下げた。
「二人とも、すまなかったね…。ボクが無防備に近付いたばっかりに……」
「おいおい、そんなに落ち込むこたぁないぜ?ダンジョン攻略なんてのは毎回誰かが失敗するもんだからな」
陳謝するレナエルをジョーが笑って励ました。
普段は馬鹿にしてばかりの筋肉だが、今回ばかりは命を救ってもらったようなものだ。
そして、そんなジョーの言葉にうなずきながら、シンが満面の笑みを浮かべていた。
「そうですよ。それに私は見せ場をもらえたので、感謝したいほどです!そろそろネタ要員ではないことをお見せしないと、メイナちゃんの評判も落ちてしまいますからね!」
「いや、それ全然関係ないだろ……むしろ、おめぇが毎度気持ち悪い服着てるせいで本人にも引かれてるじゃねぇか……」
「やれやれ、これだから筋肉にしか興味がない蛮族はダメですね…。メイナちゃんからのジト目も愛情表現です!むしろ、あの蔑んだような目で見下されることこそ至高!はぁっ…はぁっ…想像しただけで禁断症状が…っ!」
「おめぇが限界寸前の危険人物なことはよくわかったから、そろそろ静かにしてくれねぇか…?」
ジョーが急に悶えはじめたシンを蹴り飛ばして
全くもって意味不明だ。見てくれだけは良いのに、どうしてこうも気持ち悪くなってしまったのか…。
とまあ、ちょっとアレなエルフの剣士は放っておき、レナエルが真面目なトーンで今回の反省を口にする。
「正直
「ま、そう言うなって。初めての
「あ、あはは……それはまた笑えないね……」
相変わらずのジョーの茶化すような言葉にも、レナエルは苦笑いを浮かべることしかできなかった。
一緒に来ているのが彼らのような一級冒険者でなければ、きっと危険な状態に陥っていたことだろう。幾度となく“ダンジョンで油断は禁物”と聞いてきたが、ようやくそれを肌で実感したのだ。
とはいえ、これで
そこで、レナエルはとあることに気が付いた。
「あ…っ!そういえば、グレイネストが……!!」
重大なミスに気付き、レナエルは思わず声を上げてしまった。
ここの
魔法を唱えることだけで手一杯だったレナエルは全くそのことに気付かず、ゴルドルグに向けて全力で魔法を放ってしまっていた。つまり、目的のグレイネストもあのままゴルドルグと一緒に消えてしまっていることになる。
終わった……とレナエルは天を仰いだ。『再攻略』の文字が頭の中にちらつき、目の前が真っ暗になっていく。
その時、隣に座っていたイツキが何やら懐を漁りはじめると、何かを取り出した。
「問題ない。全て印はつけておいた」
そう言ったイツキの手には真紅の鉱石―――グレイネストが握られていた。
“印をつけた”というのは、ゴルドルグの鎧の中にあったグレイネストを見つけ出したということだ。それも全部である。
あの戦いの最中にゴルドルグの注意を逸らすだけでなく、グレイネストを見つけ、剣で印までつけてみせたのだ。まさに神業という他ない。
レナエルは目の前で何気なく言ってのけた元勇者を、まるで神様を見るような眼差しで見つめた。
「イツキ、君は救世主だよぉ~…!」
「俺たちは冒険者だからな。殺戮者ではない。大事なのは報酬だ」
現金な話だがな、とイツキは冷静に付け加えた。
猛獣を退治する
その言葉を聞いたジョーが豪快に笑いながらイツキの肩を叩く。
「良いこと言うじゃねぇか!あとは酒だな!旨い酒だ!」
「それと、見目麗しい女性ですね。私を甘やかし、たまに睨んでくれる美少女なら文句ありません!」
ジョーといつの間にか壁から抜け出してきたシンも加わり、思い思いに好き勝手なことを言いはじめる。
自分勝手で、身勝手で、野心だけは一人前なのが“冒険者”というものなのだ。
「そして、輝くアイドルがいれば、それでいい」
いつになく凛々しい表情の元勇者が腕を組んで、そう言い切った。
―――――――が、正直全然カッコよくない。戦っている時の方が百倍は見栄えがいいし、言っていることも滅茶苦茶だ。
けれど、レナエルはそんな馬鹿たちがいつもよりほんの少しだけ、輝いて見えた。
「……カッコつけているけれど、要は欲望丸出しじゃないか!ボクも異論はないけどね!」
そうさ、オタクだからしょうがない。欲望には忠実に、だ。
レナエルは妙に照れ臭い気持ちで、ちょっと欲が入った、けれど、いつになく満面の笑みを浮かべた。
これにて小さな王女様の初めての
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます