第28話

悠一郎は美紅が妊娠していることを本当に知らなかったのだろう。


「それは・・・本当なのか・・・?」

 悠一郎は信じられないというように首を横に振った。


「河村さんは、そう言ってた。 悠一郎さんにはまだ言ってないって言ってたけど。本当に知らなかったのね。」


悠一郎は椅子の背もたれに体重をかけ、大きく息を吐いた。


そして両手で顔を覆い震えたような声ですみれに謝った。


「すみれ、すまない。本当に申し訳ない。」


すみれに謝る悠一郎は、両手で顔を覆ったまま天井の方に顔を向けた。


顔を見せようとしない悠一郎の姿が、すみれには彼が泣いているように見えた。

 

「悠一郎さんが私のこと、すごく大切にしてくれてるの、わかってる。いつも気遣ってくれるし、私の気持ちも尊重してくれて。実家の両親も大切にしてくれてるし・・・」


すみれの弱々しく発せられる言葉を悠一郎はただ黙って聞いていた。


すみれは悠一郎に感謝していることを伝えながら、この先の言葉をどう表現しようか悩んだ。


ゆかりにも散々言われ続けて、すみれ自身も気にしていることを聞くべきか。


すみれはしばらく黙った。


悠一郎もすみれの方から目を逸らし、口を開こうとしなかった。

 

悠一郎は何を言ってもすみれを傷つけてしまうだけだと思い、何も言えなかった。


「悠一郎さんは、私をすごく大切にしてくれてたけど、女としての魅力を感じなかった・・・ってことだよね。」


すみれは思い切って、切り出した。


悠一郎はすみれの考えたいたことが、自分の予想と大きく違っていたことに驚き、すみれの顔を見た。


すみれに向けられた悠一郎の目は真っ赤で、今にも泣き出しそうな子供ようだった。


お互い傷つけ合うことになるかもしれないが、すみれは自分たち二人のことをはっきりさせたいと考えていた。


結婚して二年、一度も悠一郎が自分に触れてこようとしないことに、すみれは疑問は感じていたが、寂しいとと思ったことはなかった。


「悠一郎さんは、私のことどう思ってるの?」


「もちろん、愛してる。君と結婚できて本当に幸せだと思ってる。」


悠一郎はすみれの目を真っ直ぐ見て言った。


「でも・・・一度も・・・なかったよね・・・」


すみれは言葉を濁して言うのが精一杯だった。


悠一郎は下を向いて悩ましげに額に手を当てた。


「そんに私、魅力なかった?河村さんは、私とは真逆のタイプだったもんね。やっぱり、男の人はあんな感じの人の方が良いのかな?」


「違う!そうじゃないんだ。俺は初めて君に会った時、女神かと思った。あの会場で花を活けてる君に一目惚れしたんだ。どうしても君と一緒になりたかった。どんな手を使っても君と親しくなって結婚したいと思った。」


「じゃあどうして?どうして一度も私に触れなかったの?私のこと愛してるとか言いながら、外で女の人と一緒にいたんじゃん!そんなの信じられないよ・・・」


すみれは立ち上がって、泣き出していた。

ボロボロ涙をこぼしながら、悠一郎を睨みつけた。


「すまない、本当に申し訳ない。」


悠一郎はすみれのそばに行き、肩を抱こうとした。


「触らないで‼︎」


肩に触れてきた悠一郎をすみれは手で跳ね除け、ソファに座った。


「コーヒー入れるね。」 


悠一郎はそう言ってキッチンに入って行った。

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