第27話

手に持っているフォークを置いたら、顔を上げなくてはいけない。


 悠一郎がどんな表情をしているのかを見るのが怖いすみれは、手に持ったままのフォークを持て余した。


「河村さん?うちの会社の河村さんのこと?」


すみれの言葉に悠一郎は何も気にしていない様子で問いかけてきた。

 

本当は悠一郎と美紅はただの同僚で、美紅がすみれに嘘を言ったのではないかと思ってもおかしくないくらい、悠一郎の表情や態度は変化がなかった。


「うん。悠一郎さんと一緒に働いてるって言ってた。出張も一緒に行ってるって。」


悠一郎の指が一瞬ピクリと動き、持っていたフォークを一旦パスタの皿におき、ビールのグラスに手を伸ばした。


「同じ部署の人はほとんどすみれがあの店で働いてるの知ってるし、注文だったの?」


悠一郎は少動揺しているようだったが、美紅が普通に買い物に来たと思っているようだった。


「お客さんじゃなかった。」


「え?」


「買い物に来たんじゃ無くて、わざわざ私に会いに来たの。」


悠一郎は驚いたかおをして、手に持っていたグラスをテーブルに置いた。


「わざわざすみれに会いに来たって・・・どういうこと?彼女に何か言われたのか?」


悠一郎は身を乗り出すようにして、固い声ですみれに聞いた。


すみれはやっと顔を上げ、悠一郎の顔を見た。


悠一郎はどこか不安気な目をしていて、すみれには少し震えているようにも見えた。

 

すみれは悠一郎の顔を見て、美紅の言っていた事は本当なのだろうと悟った。


「河村さんは、何を言いに来たんだ?」


悠一郎はもう一度すみれに聞いた。


落ち着いて、優しく来てくる言い方が、すみれの出方を観察しているような気がして、すみれは少し苛立った。


「何で?何で、河村さんが何かを言いに来たって思ったの?ただ見に来ただけかもしれないし、『何か言いにくる』以外にも用事があるかもしれないじゃん。」


すみれは悠一郎のを睨むように見て、トゲのある言い方で言い返した。


悠一郎はテーブルに右肘をつき、右手を額にあて、手のひらで顔を覆うようにして目を閉じた。


二人はしばらく黙っていた。


悠一郎は顔を覆ったまま動かず、すみれはそんな悠一郎をただ見ていた。


「ごめんなさい、嫌な言い方して。ケンカしたいわけじゃないの。私は・・・悠一郎さんから本当の事が聞きたいだけなの。」


すみれは静かな声で沈黙を破った。


本当のことが聞きたいと言ったすみれだが、本心は『嘘だ』と悠一郎に言って欲しかった。


「彼女から聞いたんだね。」


悠一郎は弱々しく、小さな声で言った。

 

嘘だと言ってくれたら、悠一郎を信じよう、美紅の言った事は忘れようと考えていたすみれは、足元が崩れるような感覚を味わった。


「・・・河村さん・・・赤ちゃんが・・・できたんですって・・・」


すみれは落ち着いて話そうと、平静を装おうとしていたが、悠一郎に美紅の妊娠を告げる言葉は震え、途中で言葉を詰まらせた。


悠一郎は驚いた顔をして、すみれを見た。


悠一郎は驚きと恐怖が入り混じったような顔をしていた。

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