第26話

「ただいま。すみれ?どうしたの?電気点けないで。もう部屋暗いよ。」


 美紅がすみれの働く花屋に来たことを知らない悠一郎が帰宅し、ぼんやりしていたすみれに声をかけた。


 すみれは花屋の仕事から家に帰って来てから何もする気になれず、リビングのソファに座って外の景色を眺めていた。


すみれは外の景色を眺めていたが、彼女の瞳にはなにも映らず、今日会った美紅の言葉が頭の中で何度も響いていた。

 

『悠一郎さんのこと愛してないんでしょ?』

 

 愛しているのか、愛していないのか。

 

 出会ってから結婚するまでの時間、結婚してから今までの時間を振り返ってみると、愛しているという答えはみつからなかった。


尊敬も感謝もしてる。


愛してるってなんだろう。


「好きは、好きなんだけどな・・・」


すみれはポツリと呟いた。


「すみれ?大丈夫?」


悠一郎はすみれの方にそっと触れながら優しく声をかけた。


「お帰りなさい。ごめんなさい、ちょっとボーッとしてて。」


すみれは悠一郎が帰宅したことにようやく気がついた。

 

「あ、ごめんなさい。食事の用意が・・・」


すみれが悠一郎に謝ると、悠一郎はすみれの肩に手を置いたまま、ソファに軽く腰をかけ、


「大丈夫なの?体調が悪くなければ外で食べようか?」


と心配そうに声をかけた。


「ううん、大丈夫。今日ちょっと色々あって・・・簡単なもので良かったら、私は家で食べたい。」


すみれはそう言って悠一郎の方を向き、両腕を伸ばして彼の背中に腕を回そうとした。


悠一郎は自分の胸に入ってこようとするすみれの肩を優しく止めて、


「着替えてくるよ。」


と言って立ち上がり、ネクタイを緩めながらリビングを出て行った。


「愛してないのは、悠一郎さんの方じゃん。」


すみれは独り言のようにそう言い、キッチンでエプロンを着けて手を洗い始めた。


すみれが夕食の準備に取り掛かり、15分程で夕食は出来上がった。


「悠一郎さん、ごはんできたよ。」


すみれは着替えてリビングのソファで本を読んでいた悠一郎に声をかけた。


「ごめんね、今日は手抜きで。」


悠一郎はソファから立ち上がり、ダイニングスペースに移動すると、テーブルにはカニのトマトクリームパスタ、サラダ、ガーリックトーストが置かれていた。


「ありがとう、すみれ。全然手抜きなんかじゃないよ。美味ししそうだ。食べようか。」


二人は揃って食卓についた。


悠一郎はビールを飲みながら、すみれの作った食事を楽しんでいた。


一方すみれは食事を楽しむ余裕はなく、黙々と食べていた。


二人がテーブルに並んだ食事を半分ほど食べ進めた時に、すみれは悠一郎に話しかけた。

 

「今日ね、お店に河村美紅さんって人が来たの。」


すみれは下を向いたまま、自分の食べているパスタに目を落として切り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます