第24話

女の名前は河村美紅みくといった。


美紅はすみれの夫、悠一郎と同じ会社で働く、悠一郎の後輩だった。


三年ほど前からに悠一郎と同じ部署の配属され、悠一郎と一緒に仕事をするようになった。


美紅は悠一郎と一緒に仕事をするようになり、いつも穏やかで、冷静に仕事をする悠一郎のことを好きになるのに、時間はかからなかった。


美紅は悠一郎への気持ちを打ち明けることにより、仕事に支障が出てはいけないと思い、自分の気持ちを抑え、誰にも知られないように努力した。


そして一番近くで一緒に仕事をしているし、悠一郎のことを理解誰よりも理解していると思い込んでいた美紅は、いつか自分の気持ちが悠一郎に伝わり、悠一郎も自分のことを好きになってくれると思っていた。


そんな美紅のことを、悠一郎は全く女性として意識しておらず、しっかりした仕事ができる後輩としてしか思っていなかった。


ある日、悠一郎が結婚すると言った時、美紅は足元が崩れるような感覚を味わうほどショックを受けた。


美紅は悠一郎が結婚を決めた時から、ますます仕事を頑張るようになった。


仕事をすることで余計な事を考えないようにしていたのか、仕事だけであっても悠一郎に必要とされる人間でいたかったのか。


美紅の努力は評価され、悠一郎にも褒められた。


同僚として悠一郎にとても信頼されるようになった。


仕事の面ではとてもとても充実した毎日を過ごすことができた美紅だか、女性としては虚しさが残った。


美紅は仕事が忙しい時は悠一郎のことは気にならなかったが少し仕事が落ち着いた時に、家で一人で過ごしていると、なんとも言えない切ない想いが溢れてきて、泣いてしまうこともあった。 


美紅は悠一郎のことを諦めようと思っていたが、諦められない、忘れられないことに気が付いた。


悠一郎のことが忘れられない美紅は、悠一郎と一緒に泊りがけで出張に行った時に、酒に酔ったフリをして悠一郎に関係を迫った。


最初はただ酒に酔っているだけだと思っていた美紅の行動を、悠一郎は上手くかわし美紅の誘いに乗らなかった。


それから数ヶ月の間、美紅はチャンスがあれば悠一郎を誘った。


美紅は何度も玉砕し、もうやめようかと思うこともあったが、仕事で悠一郎と離れて会うことがなくなるまでは、諦められないだろうと思い、開き直ってアプローチを続けていた。


美紅はしつこく悠一郎を誘い続け、ある時悠一郎の反応が少し変わってきたことに気がついた。


それまでは美紅が悠一郎を誘っても、悠一郎は全く相手にせず、軽く「無理だよ」「ダメだよ」と言っていたのに、悠一郎は美紅の誘いに少し考えるような、悩むような素振りを見せるようになった。


悠一郎の心境の変化の裏に何があるのか分からなかったが、美紅はチャンスだと思い、少し誘い方を変え、それまでのようにグイグイ迫るようなことはせず、少し距離を置いて接するようになった。


美紅が悠一郎と距離を置くようになってから、二週間ほどしてから、美紅は悠一郎と共に出張に行くことになった。


美紅と悠一郎が出張にでた夜、仕事終わりに美紅は悠一郎を飲みに誘った。


久しぶりに美紅と仕事以外の時間を過ごした悠一郎は、初めて美紅の前で酒に酔ってしまった。


酔った悠一郎を介抱した美紅は、自分にチャンスが巡ってきたと思い、そのまま二人は一夜を共にすることとなった。


美紅は自分の折れそうな心と、会ったことのない悠一郎の妻のすみれに「勝った!」と思った。


美紅は今まで全く自分になびかなかった悠一郎が、やっと自分を受け入れてくれた事が最高に嬉しかった。


朝、目覚めた悠一郎は自分が取った行動に青ざめた。


美紅との一夜をとても後悔していたが、美紅は家庭をこわすつもりはないから安心してほしいと悠一郎に言った。

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