第22話

「ねえ、今日は何がおススメ?」


透真は魚屋で商品を選ぶような言い方ですみれに聞いた。


初めてこの花屋を訪れて以降、透真は必ず花を買って帰っていた。


すみれと花屋の店長は、毎回買わなくていい、気にしなくていいと言っていたが、透真にはただすみれに会いに行くだけというのも気が引けた。


透真の中で「花を買う」という、すみれに会うための口実が欲しかったのかもしれない。


花を買う目的のために花屋に行くことが、「友達」としての関係をキープする、透真にとっての気持ちの抑止にもなっていた。


透真はすみれに会いに行く度にすみれのことが気になり、別れた後もすぐにすみれに会いたいと思っていた。


すみれともっと話がしたい、もっとすみれのことが知りたいと思う気持ちを抑えながら、毎回すみれと話をしていた。


すみれから花の話を聞いていると、聞くだけでは物足りない気持ちが芽生えてきた。


どうしたらもっとすみれと気持ちを通わせ、すみれの気持ちに一歩近づくにはどうしたらいいか考え、透真は自分の働くバーに小さい花でも飾れないかと相談した。


そうしたことがきっかけで、透真はすみれに会いに花屋に行く度に、花を買うようになった。


透真ははじめバーのカウンターや客席のテーブルに花を飾ることを考えていたが、すみれは女性用の化粧室に花を飾ることを提案した。


化粧室に花を飾ることにバーの店長も賛成し、どんな花をどのどのような形で飾るのかなど、細かいことはすみれに任せることとなり、バーと花屋は取引先として付き合うことになった。


「そうだねえ・・・」


すみれは店に並んでいる何本かの花を抜きとり、小さなブーケを作った。透真はすみれがミニブーケを作るのを見る時間が好きになった。


すみれは器用に花の位置を決めながら、包装紙を巻きつけ、そのまま花器に生けても良いように作っブーケを作っていた。


花を触ることに慣れていない人間にも、簡単に見栄え良く飾れるように、さり気なく配慮するすみれに、バーの店長も信頼を寄せるようになっていた。


「店長がさ、喜んでたよ。最近女のお客さんから評判良いって。」


透真は作業をしているすみれに話しかけた。


「トイレにキレイな花が飾ってあるって言ってくれる人がいるみたいで。すみれさんに頼んで良かったって。」


バーの店長が喜んでいたと聞いたすみれは嬉しさと照れが入り交ざり顔を真っ赤にして下を向いた。


「あー!照れてるー⁉︎」


透真はすみれをからかった。


「もうっ‼︎やめてよ、恥ずかしい!」


すみれは頬を少し膨らませて、透真の顔を可愛く睨んだ。


「でも、嬉しいんでしょ?」


透真はすみれの顔を覗き込むようにてすみれの顔を見た。


「そりゃあ、まあね。嬉しいですよ。」


すみれははにかんだ笑顔を見せながら素直に言った。


透真とすみれがじゃれ合っていると、一人の女性客が花屋に入ってきた。


すみれはすぐに女性客に気が付き、透真から少し離れて


「いらっしゃいませ。」


と声をかけた。

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