第21話

透真がすみれの働く花屋を訪れてから、一ヶ月近く経った。


その一ヶ月の間、透真は花屋に週に一回か二回のペースですみれに会いに行っていた。


紫と健吾にはスタジオでの練習で何回か会ってはいたが、透真はすみれの働いている花屋に何度も足を運んでいることを言えなかった。


透真はすみれに会いたいと思って花屋行っているが、すみれとは何の約束もしておらず、透真が花屋の前まで行き、すみれがいれば声をかけ店の中に入るという風に通っていた。


透真は花屋に客が多ければそのままバーに出勤し、話せそうな状態であれば、すみれは店先で話すようになっていた。


透真はすみれと友達として接するために、予定のない時にすみれに会いに行くのではなく、自分がバーに出勤する前に立ち寄るようにしていた。


予定のない時にすみれに会ってしまうと、すみれの仕事が終わった後、もっと一緒にいたいと思い、友達としての一線を越えてしまいそうだったからだ。


透真はすみれに会いに花屋に行く時間が楽しみになり、すみれと過ごすわずかな時間を大切に思っていた。


今まで何となく無駄に過ごしていた時間が、意味のあるもののように感じていて、新しい曲も書けるようになっていた。


そして特に好きでもない女からでも、誘われるとデートをしていた透真だが、そんな時間はつまらないと感じるようになり、女から連絡が来ても誘いに乗らなくなっていた。


好きでもなく自分から会いたいと思わない女と一緒に過ごすくらいなら、自分の気持ちを伝える事ができなくても、すみれとの過ごす時間を増やしたいと思っていた。


今も透真はすみれの働く花屋に向かって歩いていた。


透真は花屋の近くまで来ると、直接花屋には行かず、花屋の正面の外観が眺められる、車道を挟んだ向かい側の歩道に立った。


早くすみれに会いたい気持ちもあったが、透真は少し離れた所から花屋の外観を眺めるのが好きだった。


訪れる度に、少しずつ違う花が置いてあり、その時々で雰囲気が変わる店先から、時折すみれが働く姿が見えた。


接客をしていたり、片付けをしていたり、ディスプレイを整えていたり、花に囲まれて仕事をするすみれの姿を見ると、透真の胸はくすぐったいような感じがした。


すみれは少し離れたところにいる透真の姿を見つけると、小さく手を振った。


大したことではないが、透真はすみれが自分が来たことに気が付いて手を振ってくれる事も、嬉しく感じられた。


「おはよう」


透真は自分に気が付いて手を振るすみれの所まで行き、嬉しそうに挨拶をした。


「おはよ。もう夕方に近いけど・・・」 


「別にいいじゃん」 


透真はバーに出勤する前に花屋に寄っているので、いつもすみれの仕事が終わる少し前の夕方に近い時間に来店していた。


本来なら「こんにちは」や「お疲れ様」などと言うのが一般的ではあるが、いつも照れ隠しのように「おはよう」と言っていた。


そして、「夕方だよ」と言い返してくるやり取りも、透真にとっては嬉しいことだった。

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