第19話

すみれは透真がライブの時に、自分とのことを内緒にしてほしい、と言ったことを説明しに来たのだと思った。


「びっくりした。健ちゃんと組んでたのがノアくんだったなんて。」


すみれは、店の花の位置を微調整するように触ったり、大きな花器の位置を少しずらしたりと、店の花が綺麗に見えるように作業をしながら話した。


「あれから、紫とは会ってないんだけど・・・」


すみれは紫にはまだ何も言ってないということを透真に伝えた。


すみれは透真の気持ちには全く気が付いておらず、自分と透真が知り合いだったことの口裏合わせに来たのだと思った。


「あの時は、ごめん。オレ、ちょっと動揺してて・・・」


すみれは驚いた顔をして、透真を見た。


透真はすみれに自分の気持ちを打ち明けず、どう説明したらいい困ってしまい『会いたいから会いに来た』と言えたらどんなに楽かと思った。


透真は自分の気持ちだけを伝えず、健吾と紫と話したことを伝えようと思った。


「紫とアズ・・・ああ、健吾・・に・」


普段健吾のことを『アズ』と呼んでいる透真に、すみれは


「大丈夫、アズでわかるよ。」


と優しく言った。


「紫とアズには、ライブの後話したんだ。本屋でのこと。」


透真はライブ後に紫、健吾、透真の三人で話したことをすみれに伝えた。


本屋ですみれに始めて会った時のことを、すみれは紫に話していて、透真のことを『日向の声の君』と言っていたことを聞いたと、透真はすみれに話した。


「紫がさ、オレのこと『日向の声の君』って、アンタだったのー?ってびっくりしてた。」


透真が紫の口調をマネして言ったことが、すみれには面白かったようで、ケラケラと笑い出した。


「似てる、紫に似てる・・・」


紫のマネをした透真がよほど面白かったのか、すみれはしばらくお腹を抱えて、クスクスと笑っていた。


「あのさ、ノアくん。日向のこと、聞いた?」


クスクスと笑っていたすみれは、重くならないように気をつけながら、サラッと透真に聞いた。


透真は今までのすみれとの会話や紫たちの話から、すみれが透真に気を使わせないように、明るく言っているのだと思い、その気持ちを受け止めるように優しく、そしてはっきりと答えた。


「聞いた。でも、オレが話させたようなもんかな。オレの方から『日向』の名前出したから、紫は知ってるもんだと思って話してくれた。」


透真はすみれが本当は日向のことを知られたくないと思っているのではないかと心配した。


そして、紫が自分に日向のことを話したことが原因で二人の仲がこじれることを心配した。


「ううん、いいのいいの。大丈夫だから。紫もノアくんだから話したんだと思うし。」


すみれは透真の気遣いにて優しく応えた。


すみれは自分の話をするのが得意ではなく、なかなか人と打ち解けられないこと、今働いている花屋は、大学生の時にアルバイトしていて、店長とはその頃からの付き合いだと、ポツポツと話した。


すみれのゆっくり話すテンポの合わせ、透真は相槌を打った。


すみれの話だけでなく、前回のライブの感想や、音楽のこと、お酒のこと、花のことなど、時折冗談も交えながら色々と話した。


透真がすみれの働く花屋にいる時間、何人かの客が来店した。


客が来ると、すみれは透真に「ちょっと待ってて」と言い、接客のために透真から離れた。


透真は自分が邪魔になってはいけないから、帰ろうかとも思ったが、すみれが働く姿が見たい、もっとすみれと話したいという気持ちが勝り、そのまま店の中ですみれの手が空くのを待っていた。

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