第18話

透真が抱いていた花屋のイメージと違うこの花屋は、ダークブラウンと黒を基調とした、カフェのような花屋だった。


真っ白な天使のようなイメージの花屋だったら入り辛いと思っていた透真だったが、この店なら普通に買い物ができると思った。


「僕はね、誰でも気軽に買いに来れる花屋を作りたかったんだ。」


店員はゆっくりと話し出した。


「花は特別な日のものって思ってるお客さんが結構多くてね。女性だけじゃ無くて、男性でも子供でもフラッと入れるような花屋にしたかったんだ。」


気軽に買いに来れる花屋にしたかったと語るその男性店員は、この花屋の店長だった。


花屋の店長の仕事に対する思いや、目標がある生き方に透真は羨ましいと思うと同時に、男としての焦りも感じた。


こんなカッコイイ生き方をしていて、ルックスも良いのに、嫌な感じが一切しない男と仕事をしていたら、俺なんか男として全く見られないだろうなと思ってしまった。


透真と店長が店の中で話していると、すみれが大きな鞄を肩から下げて店に入って来た。


外から大きな荷物を持って店に帰ってきたすみれは、透真と初めて会った時やライブの時とのような女性らしい服装ではなく、透真と二回目に会った時と同じくシンプルなシャツに黒のパンツスタイルだった。


すみれは店の奥に入ろうとした時に


「いらっしゃいませ」


と透真に声をかけた。

 

声をかけた時にすみれはその客が透真だと分かっていなかった。


振り向いた客の顔をみて、その客が透真だと気がつくと、一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。


「紫に聞いて来てくれたの?」


とすみれが透真に話しかけると、花屋の店長はすみれの顔を見て言った。


「おかえり、すみれちゃん。ご苦労様。」


今まで透真と話していた店長はすぐに透真の顔を見て、


「すみれちゃんの友達だったんだね。」


と透真がすみれに会いに来たことを理解した。


すみれは店長に透真のことを紹介した。


「そうです。友達と一緒にバンドをやってて。ほら、前に夕方配達行った時に助けてくれた人です。」


すみれは透真と二回目に会った時のことを店長に話していた。


「ああ!あの時の!」


店長は思い出したよう言い、


「あの時はどうもありがとう。僕が足を怪我したせいで、面倒なことに巻き込んでしまって。でも助かりました。本当にありがとう。」


と言って、透真に深く頭を下げた。


店長の言葉に透真は恐縮していると、すみれが


「ごめん、ノアくん。ちょっと荷物置いてくるね。」 


と言って、店の奥のテーブルのあるスペースへと入って行った。


透真はすみれと『黒崎透真』として出会ったはずなのに、彼女が『ノア』と呼んだことに少し胸が痛くなった。


「ノアくん、でいいかな?すみれちゃんはすぐに出てくると思うから、少し待ってて。ごゆっくり。」


「はい。」


花屋の店長は、透真がすみれの友達だとわかり、後はすみれに任せようと思ったのか、透真に声をかけて、店の事務所に入って行った。


店長が事務所に入ってからほどなくして、黒いエプロンを着けたすみれが、肩より少し長い髪の毛を後ろで一つに束ねながら戻ってきた。


「カフェの店員みたい。」


透真はそう言ってニヤッと笑った。


「よく言われる。」

 

すみれもそう思っているのか透真の言葉に否定をしなかった。


「今日はどうしたの?プレゼント?」


すみれは透真が紫と健吾の友達だと知ったからか、安心したかのようにとてもフランクな口調で話した。


そんなすみれの口調に、すみれとの距離が縮まったような気がして、透真は少し嬉しかった。


「いや、たまたま。っていうか、紫にウチのバーの近くの花屋だって聞いたから、この辺かなと思って・・・」


透真は遠回しにすみれに会いに来たことを伝えたが、すみれは全く表情を変えず


「この前、全然話せなかったもんね」


と、前回ライブの時のことを言った。

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