第17話

透真は自分の働くバーに出勤する前に、すみれの働く花屋の前に来ていた。


透真と健吾のライブから二週間ほど経っていた。


この二週間で透真は健吾とスタジオでの練習で、四回会った。


健吾は前回のライブ後の打ち上げの後から、すみれの話は全くしていなかった。


健吾の態度は、健吾は透真とすみれが知り合いだったこと、透真がすみれのことを好きになっていることをすっかり忘れているのではないかと思うほどだった。


だが健吾がすみれの話をしないのは、健吾の優しさであり透真に対する信頼の証でもあった。


透真は自分のすみれに対する気持ちと、紫や健吾の言っていたことなどを考えて、どうするのがいいのか、自分がどうしたいのか、全く答えが出なくなっていた。


紫も健吾も失いたくない、でもすみれにもっと近づきたいという気持ちが交錯し、自分の気持ちを整理するのに二週間もかかってしまった。


透真は自分の気持ちはすみれに伝えず、友達として付き合っていこうと決めた。


友達として、といったところで、透真はすみれの電話番号やどこに住んでいるのかなど、すみれのことは全く知らなかった。


ただ前回のライブの後に紫から、すみれが働いているのは透真の働いているバーの近くの花屋、ということだけ聞いていた。


透真は自分の働いているバーの近くに花屋があることを、紫に聞くまで知らなかった。


調べてみると〝近い〟とは言えないが、バーから歩いて10分ほどの所に、一軒だけ花屋があった。


本当にその花屋がすみれの働く花屋だと確信があるわけではなかったが、透真はその店に来ていた。


今まで自分で花を買ったことがなかった透真は、店に入るのに勇気がいった。


店の軒先に並んでいる花を見ていると、店の中から背の高いよく日焼けした、精悍で爽やかな男がニカッと笑って


「いらっしゃいませ」


と透真に声をかけた。


 透真はすみれに会いに来ていたし、『花屋で働いているのは女性』と、思い込んでいたので、男性の店員が出てきたことに驚いた。


人懐っこい明るい笑顔で声を店員に対して、透真は咄嗟に言葉が出てこず、そのまま数秒店員の顔を見て固まっていた。


「プレゼントをお探しですか?」


目を丸くして店員の顔を見てい透真に店員はそのままの笑顔で尋ねた。


「す、すみません!オレ、花屋って初めてで・・・てっきり女の人が出てくると思ってたから・・・」


透真はしどろもどろになりながら、必死で言い訳をした。


「全然。大丈夫ですよ。実際店頭に立つのは女性の方が多いしね。ウチの店も女性の店員いてるんですが、ちょっと出ててね。」


優しくそう言ってくれた店員の言葉に、透真は少し安心して笑顔を見せた。


「プレゼントではないんですけど、どんな花があるのかなあと思って。見せてもらっても良いですか?」


透真は花屋の店員の顔を見て聞いた。 


透真は花屋をカッコイイ男だなと思った。


花屋は「どうぞ」と笑顔で言い、透真を店の中に招き入れた。


透真の他に、客は誰もいなかった。


花屋の店の中には所狭しと色とりどりの花が並んでいた。


透真は店の中を見回した。


店の奥には観葉植物の鉢植えや、花器、テーブルセットが置いてあった。


「お店、広いんですね。花だけじゃないんだ。」


花屋に初めて入った透真は自分が想像していたイメージと違って、インテリアにもこだわっていそうな雰囲気に魅了された。


「ん?ああ、奥のブース?あっちはアレンジメントとかブライダルのブーケを作ったり、時々ワークショップも開いたりするんです。興味ありますか?」


店員は花を触りながら優しく答えてくれた。


「いえ、なんか自分が今まで思っていた花屋のイメージと違うなと思って。」


透真は花の事とは違ったことを話して大丈夫かなと考えたが、取り繕っても仕方がないので、正直な感想を言った。

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