第16話

自分もすみれを支えられる1人になりたいと透真は思っていた。


「俺も、その一人になれるかな?」


透真はポツリと言ったが


「オマエはダメだ!」


と、健吾がキッパリと言った。


「なんで?アズと紫と一緒にいることが多い俺も、すみれさんと友だ・・・」


「ノア、オマエはすみれと友達にはなれない!」


健吾は透真がすみれと友達になりたいと言うのを遮るように言った。


喧嘩になりそうな健吾と透真の空気を仲裁しようと、紫は二人の間に入り、


「ちょ、ちょっと待って。ふたりとも何なの?私にもわかるように説明してよ。」


と、ふたりを落ち着かせようとした。


「ノア、すみれはダメだ。あいつは結婚してる。」


今日のライブでの透真の態度で、透真のすみれに対する気持ちを見抜いていた健吾は、透真に優しく、そしてお願いするように言った。


透真は驚いて一瞬言葉を失った。そして動揺を隠せず、


「結婚してる?あの人は彼氏じゃなかったのか・・・」


と独り言のように言った。


「ノア、知らなかったの?」


紫は心配そうに透真に声をかけた。


「ああ。今日、ライブの前に駅前で見かけたんだけど、男と歩いててさ。彼氏だと思ってたんだけど、旦那だったとはね・・・。」


透真は自分が滑稽に思えて、自分を鼻で笑った。


紫は今日一日、様子がおかしかった透真の行動に、合点がいった。


「ねえ、ノア。すみれは何も言ってなかったの?結婚してるとか、自分の生活について。」


 紫は透真の気持ちを汲み取るように優しく聞いた。


「花屋て働いてるとは言ってたけど、結婚してるとは言ってなかった。まだそこまで親しいわけでもなかったし、俺が勝手に思い込んでただけだな。指輪もしてなかったし。」


透真はすみれとの会話を思い出し、悩ましげに頭を掻きながら紫の質問に答えた。


「指輪はね、花屋さんって意外と水仕事多いみたいで、手が荒れるし、花も傷付けたらいけないからって・・・」


紫はすみれが結婚指輪を普段着けていない理由を透真に話した。


「そうだったんだ。」


まだ気持ちの整理がつかない透真は、半ば諦めるように、自分を納得させるように呟いた。


「日向のことがあってから、その後も色々大変だったみたいなんだ。やっと落ち着いて、今幸せそうなんだから、すみれの幸せを壊すようなことは、やめてくれよ。」


健吾は透真にそう言って、外の空気を吸いに席を立った。


「怒ったのかな。」


透真は健吾が席を立ったことを気にして紫に聞くと


「頭冷やしに行ったんじゃない?大丈夫よ。」


と言った。


健吾が席を立ち、紫は透真の方に身を乗り出して、内緒話をするかのように、少し小さな声で話し始めた。


「健吾はああ言ってるけどね、私はノアがすみれの友達になってくれたら良いなぁと思ってたの。」


すみれと関わるなと言った健吾とは、反対のことを言いている紫に透真は困惑して


「どういうこと?」


と質問した。


「私はね、友達としてだったら、すみれの話を聞いてあげたりしてほしいなって思ったの。健吾はすみれに近づくなって言ってるけど・・・」 


透真は紫の目を真っ直ぐ見て、紫の言葉を聞いた。


「初めてだったの。すみれが誰かに日向の話をしたの。たぶんすみれの旦那さんも詳しい話は知らないと思う。初対面でも日向の話ができたってことは、何かノアは特別だったんじゃないかなって思って・・・」


透真は紫の目を見て頷いた。


「でもね・・・ノアがすみれに恋愛感情を持ってて、その気持ちをコントロールできないんだったら、私も健吾と同じ。すみれに近づかないでって思う。私ね、『日向の声の君』がすみれの友達になったら良いのにって本当に思ってたの。だけどさっきのノアの顔見たらね・・・それはそれで辛いよね。」


紫は透真の恋を応援できないこと、すみれの友達でいてほしいとも言えないことを残念そうに言った。


透真は自分のすみれへの気持ちや、健吾、紫の思いを知り、どう答えていいかわからなかった。


そのあとは三人とも当たり障りのない話や、今後のスケジュールの相談などをして過ごした。


夜が明け始めた頃、電車が動き出したので三人は解散することにした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます