第13話

すみれの家族は四人家族だった。


会社員の父と、専業主婦の母、すみれの一歳年下の弟である日向とすみれの四人だ。


会社員の父は転勤の多い部署にいて、すみれと日向が小学生になった頃から単身赴任をしていた。


すみれの母は花が大好きで、父の不在が多い家の中に色々な花を飾り、明るく笑顔で毎日を過ごしていた。


すみれと日向は、そんな明るくて優しい母のことが大好きだった。


高校生になったすみれは紫と健吾と仲良くなった。


高校の部活では、すみれは美術部に入り、紫と健吾は軽音部に入った。


美術部の部室と軽音部の部室は近くにあり、仲の良かった三人は放課後の部活が終わった後、一緒にすみれの家に帰った。


紫と健吾はすみれの家で勉強し、夕飯を食べて帰ることもあった。


すみれ達が高校一年生の時、日向は中学三年生だった。


高校受験を控えていた日向は、志望校合格に向けて、週に何度か塾に通っていた。


日向は天気のいい日は自転車で塾まで行っていた。


雨が降っている日は、母親が車で塾の送り迎えをしていた。


十一月の中頃の肌寒い雨の日、母親が風邪をひいて寝込んでいた。


いつもなら雨の日は母親が車で塾まで送り迎えをしているのだが、日向は風邪をひいた母親を気遣って、塾まで歩いて行くと言った。


日向が家を出ようとした時に、すみれが学校から帰ってきた。


「姉ちゃん、お帰り。今日二人は?」


玄関で靴を履きながら、日向は紫と健吾が一緒じゃないのか聞いた。


「ただいま。今日はお母さん調子悪いし、帰ったよ。日向、もう行くの?」


「今日は歩くわ。」


「お母さんは?」


「寝てる。」


「そっか。ゴハンどうしようか?」


「レトルトのカレーとかでいいんじゃない?姉ちゃん、ご飯炊くくらいしかできないでしょ?」


「うるさいわね!」


「行ってきます。」


「行ってらっしゃい。雨、結構降ってるよ。」


なんて事のない普通の会話だった。


この普通の会話が、すみれと日向の最後の会話となった。


日向が出かけてから数時間経ち、自分の部屋で勉強していたすみれは、夕飯の支度をしようとリビングに行った。


すみれがリビングに入ると、体調を崩して寝ていた母親が、キッチンで夕飯の支度をしていた。


「あれ?お母さん、大丈夫なの?」


すみれは心配して声をかけた。


すみれの母親は、体調を崩して家族に迷惑をかけていると思い、申し訳なさそうに言った。


「すみれ、ごめんね。少し良くなったから簡単なものだけど、今からごはん作るわね。」


すみれは謝る母親に対して、「そんなに気を使わなくてもいいのに。」と思っていた。


「もう、お母さん。無理しないでよ。日向はレトルトで良いって言ってたんだけど、お母さんも食べられそうなら、何かデリバリーしようよ。そろそろ日向も帰ってくるでしょ?」


すみれは母親に提案した。


「そうねえ。じゃあ、あなた達の好きな物を頼みなさい。お母さんはうどんでも作るから。」


母親に好きな物を頼んでいいと言われたすみれは、子供のように大喜びした。


すみれは何を食べようかと心を躍らせながら、リビングのソファに座り、デリバリーのメニューを見始めた。


すみれが夕飯のデリバリーのメニューを見ていると、家の電話が鳴った。


「私、出るよ。」


そう言ってすみれは立ち上がり、電話に出た。

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