第11話

透真と健吾のステージが終わり客席が明るくなると、紫はすみれに声をかけた。


「すみれ、この後まだ二組あるけど、どうする?このまま見ていく?」


 透真と健吾はステージから引き上げ、次に演奏するバンドがセティングを始めていた。


「久しぶりに大きい音聴いて、ちょっと疲れたから外に出たいかな?紫、お茶しに行こうよ。話したいこともあるし。」


 すみれは紫に一緒に外に出ようと誘った。


「わかった。ちょっと待ってて。二人の様子見て、出るって言ってくるから。」


紫は控え室に戻った健吾と透真に、すみれと外に出ても大丈夫か確認しに行くと言い、客席の後ろの方にある控え室に続く入り口へと消えて行った。


 紫が透真と健吾の様子を見に控え室に入ってから、五分ほどして客席で待っているすみれのところに戻ってきた。


「すみれ、お待たせ。一時間くらいなら大丈夫そうだって。」


 控え室から戻ってきてすみれに声をかけた紫の後ろには、健吾と透真が立っていた。


「健ちゃん!!久しぶり!」


久しぶりに健吾の会ったすみれは、目をキラキラさせ嬉しそうに健吾に声をかけた。


「よう!すみれ、久しぶり。ありがとな。急に誘って悪かったな。」


 健吾は紫から今日のライブに誘った事を聞いていて、すみれに礼を言った。


「久しぶりに健ちゃんのライブ見られて良かった!前と感じ変わったね。相変わらず、喋りが・・・」


 すみれはクスクスと笑いながら健吾に率直な感想を言った。演奏中の雰囲気とMCの雰囲気が全く違っていたとろが、すみれのツボだったらしい。


「あぁ。ノアと組むようになって少し雰囲気変わったんだ。今の曲はほとんどノアが作ってる。」 


 健吾は親指を立てて、その親指で透真を指差し、すみれに透真を紹介するような素振りを見せた。


「こんにちは、すみれさん。」


 透真の方が先に口を開いた。


 ライブ中にステージの上から『二人のことは内緒にして』というような仕草をされたすみれは、初対面を装った方が良いのか、知り合いだと言った方が良いのか分からず、


「こんにちは。」


 とだけ答えた。


 「紫と出てくるんだろ?すみれ、打ち上げは?来れる?」


健吾はすみれにライブ全て終わった後にバンドのメンバーやお客さんと開催される打ち上げと称した飲み会に参加できるのか聞いた。 


「ごめん。打ち上げは無理かな?明日朝からお店出る事になってるし。」


すみれは健吾の打ち上げの誘いを断った。


すみれが健吾とフランクに話す姿に、自分はまだすみれの友達にもなれていないと透真は思い、少し胸が痛んだ。


「そっか。久しぶりに色々話したかったんだけど。残念だな。ノアのこともちゃんと紹介したかったし。」


健吾はとても残念そうな顔をして、すみれに言った。


「え?健ちゃん、お茶しに行かないの?一緒に行こうよ。ノアさんも。」


 透真と健吾が紫と一緒に控え室から出てきたので、すみれは透真と健吾も一緒に出られるのだと思い込んでいたすみれは、少し残念そうに言った。


「いや、俺らはここにいた方が良いんだ。ごめんな。また今度。」


 透真と健吾はライブに出たらその日のやるべき事が終わったわけではない。


今日来ているお客さんに、次も来てもらえるように営業しなければならない。


 透真と健吾はそこそこファンがついてはいるものの、まだ不安定でいつでもチケットが完売してしまうほど人気者でもなかった。


「そっか。じゃあ紫借りるね。」


「はいはい。行ってらっしゃい。またな。」


 健吾は子犬を愛でるようにすみれの頭を右手で優しく撫でてから、二人に手を振った。


 すみれと紫は健吾に小さく手を振り、後から透真にも手を振って、二人で仲良くライブハウスを後にした。

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