第9話

すみれは何度か健吾のライブを見に来ているが、今日は前に聴いた時と何かが違うなと感じていた。


 演奏している曲と曲の間のMCに入った時に、すみれはステージの方を見た。


ステージには二人の男が立っている。


すみれのよく知る健吾はステージの下手に立っていた。


MCは主に下手にいる健吾が喋っていて、すみれはずっと下手にいる健吾を見ていた。


人付き合いの上手な健吾は喋りも上手く、ライブのMCも上手くファンの女の子の心を掴み、笑いを取りながら進めていた。


 健吾と透真が演奏していた曲はどこか切なげで、落ち着いた曲調のものが多いのだが、MCはガラッと雰囲気が変わり、楽しく面白い話をするようにしているのが、彼らの魅力でもあった。


楽しい兄貴分とあまり喋らない大人しい弟分というようなキャラクター作りも上手くいっていて、二人のステージ映えも良かった。


楽しい健吾のMCにクスクスと笑いながらすみれと紫は健吾を見ていた。


ステージの上手で肩からギターを下げて立っている透真は客席にいる紫が、誰かと一緒にいるのが見えた。


透真はギターを弾きながら


(珍しいな・・紫が誰かと一緒に座ってるなんて・・・)


と思っていた。


透真は自分たちのライブで紫が誰かと一緒にライブを見ている姿を始めて目にした。


紫はいつもバンドのスタッフとしてライブハウスにいるので、透真と健吾がステージに上がっている時は、客席の後ろの方で一人で立って見ていることがほとんどだった。


紫と一緒にいる女はステージの方を全く見ず、時折紫と耳元で会話し楽しそうにしているのはわかったが、透真は紫と一緒にいる女の顔が見えなかった。


透真は演奏に集中しギターを弾きながら歌った。


MCは主に健吾が担当している。


透真はステージの上では少し寡黙なキャラで通していた。


MCに入ると紫と一緒にいる女が顔を上げ、健吾の方を見た。


紫と一緒にいる女の顔を見た瞬間、透真は自分の目を疑った。


昼間あんなに会いたいと思っていたすみれが客席にいて、自分達のライブを見ている。


透真は幻覚を見ているのかと思った。

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