第6話

透真はまたすみれに会いたいと思っていた。


すみれに会って話した後は、曲が作れなくてモヤモヤした気持ちが、少し晴れているような気がしていた。


 最初に本屋ですみれに会った時も、前に透真の働くバーの前で会った時も、透真はすみれに連絡先を聞くことができなかった。


 自分から連絡先を聞くことができない自分に、透真は今までどうやって女と付き合ってきたのか、どうやって連絡先を交換していたのかを考えた。


今まで疑問を持ったことなど無かったが、色々な女と付き合ってきた自分が、一度も自分からアプローチして恋愛してきたわけではなく、全て相手の気持ちを受け入れる形で恋愛が成立していたのだと気がついた。


透真はすみれに出会い、すみれの事を考えると、


今までの女は本当に恋人だったのか・・・?


と、思った。


 透真は自分が出演するライブに向かう前に、偶然またすみれに会えることを期待して、すみれと初めて会った本屋に来ていた。


 肩からギターケースを下げ、本屋の中をゆっくりと歩き、最初に会った時にすみれが花の写真集を見ていた棚の所に来た。


 (いるわけないか・・・)


 透真はもしかしたら、すみれに会えるかもしれないと思っていた自分に少し笑ってしまった。


 本屋の中にすみれの姿は無く、透真は気を取り直して本屋を出て行った。


 透真はすみれと初めて会った日のことを思い出しながら駅への道のりを歩いた。車道を挟んだ向こう側の歩道を見ると、すみれが歩いていた。


 (うそだろ・・・)


 もう今日はすみれに会えないだろうと思っていたが、思いがけずすみれの姿を見かけた透真の心は少し弾んだ。


 手を上げて、大声ですみれに呼びかけようとした透真は声を詰まらせた。


「・・・・・っ!」


 一人で歩いていると思っていたすみれの横には、スーツを着た男がいた。


 すみれと一緒に歩いていた男は優しくすみれに笑いかけ、すみれもその男の笑顔に応えるように笑っていた。


「なんだ・・・男いたのか。まあ、いてもおかしくないか・・・」


 透真は自分に言い聞かせるようにつぶやき、駅に向かってまた歩き出した。


 透真はすみれが男と歩いている姿を見て、自分がすみれのことを好きになっていることを自覚した。


そして自分がすみれのことを、十年前に弟を亡くしていて、花屋で働いていること以外、何も知らないことに気がついた。


 透真はライブハウスに着いてから、控え室でずっとギターを弾いた。


男と歩いていたすみれの姿が何度も頭をよぎり、苛立ちをかき消すようにギターをかき鳴らした。

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