BlackViolet

形埼 文音

第1話

 透真とすみれが出会ったのは、駅前の大きな本屋だった。よく晴れた日の昼過ぎ、ガラス張りの本屋はとても明るく、少し沈んだ気持ちでいる透真には、あまり居心地がいい場所ではなかった。

 透真はインディーズのバンド活動をしながら、バーテンダーのアルバイトをしていた。最近はあまり曲が書けなくなってきて、このままバーテンダーとして生きて行こうかと考える時があった。 それでもなかなか音楽を諦める事ができず、一歩前に進める何かが無いかと、滅多に来ることが無い本屋に立ち寄った。

 (平日の昼間でも、駅前だとそこそこ人がいるんだな)

 夜型生活の透真は昼過ぎまで寝ている事が多く、この日はたまたま早く目が覚めたのだ。

 滅多に本屋に来ることのない透真は何を見たら良いのか、どう本を探せばいいのかわからず、ただブラブラと当てもなく歩いていた。

 曲が書けない焦りなのか、気持ちにゆとりがなく、音楽関係の本は避けようと音楽誌の手前の棚の所で足を止めた。

 透真が足を止めた棚は、画集や写真集など、美術関連の棚だった。

 透真が足を止めた棚の脇で、何冊もの本を抱え踏み台を使って作業をしている本屋の店員がいた。その店員の横を抜けると、一人の女が花の写真集を見ていた。

 何気なく目に止まった本に手を伸ばそうとした時に、パッと周りが白く光った。

 ガラス張りの通路を歩いていた客の一人のスマートフォンの画面が、ガラスを通して入ってきた光を拾い、無意識にスマートフォンの画面を動かして本屋の中に大きく光を反射させてしまったのだ。

 踏み台を使って作業をしていた店員が光の反射に驚き、抱えていた本を落としそうになっていた。

 とっさに透真は自分の側で花の写真集を見ていた女の腕を掴んで、自分の方に引き寄せた。

「・・・・・っつ・・・」

 店員が抱えていた本が落ちてきて、透真の肩に当たった。透真が女を引き寄せ、庇わなかったら、落ちてきた本は女の頭に当たっていただろう。

 透真がとっさに庇った女がすみれだった。

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