第6話 結婚資金

 次の週の土曜日には僕と茉優花まゆかは二つの結婚式場を見て回ることにしていたんだ。


 結婚情報誌を二人で読みながらいくつか候補を上げてたんだよ。


 すごく楽しかった。

 満ち足りた時間だったな。


 まさか僕と茉優花がこんな風になるなんて。

 僕は思い出を走馬燈のように思い返して、愛されてないことに気づき始めていた。

 分かってしまった。

 僕はただの阿呆あほな男だ。


 いつから僕と茉優花の愛は壊れてしまっていたのだろうか。



「僕が預けた結婚資金を確認したいんだけど?」


 眠る茉優花の耳元に僕はそっと囁いた。

 なかなかにホラーチックだなと、自分でも感心し始めていた。

 少しだけ楽しくなってしまった。


 許さないよ?


 僕を裏切ったんだね?


 茉優花は何年もあの男と一緒に、純粋で馬鹿な僕のことを嘲笑あざわらっていたのか!?


 二股の男と僕の金を騙し取り、茉優花はソイツと二人で裏で笑い合って、そうして何をするつもりなんだ?


 金はたぶんもう使い込まれてしまったな。


 どうでもよくなった。


 茉優花と浮気相手に……制裁を加えなくちゃな。


 ふふふっ。

 向こうが本命かな?


 もうどうでも良いや。


 復讐してやろう。

 許して下さいと泣いて頼むまで。


 茉優花の苦痛で歪む顔が見たい。

 たった数時間で愛が憎しみで変わっていく。


 僕は茉優花が痛む姿など一度も願うことはなかった。


 今までの僕ならば、茉優花の美しい指に出来たささくれ一つに胸が痛み、彼女が熱を出せば眠れないほど心配してきた。


 さっきまでは、愛していた。


 そう――

 この世で一番好きな人だった。





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