16

「あの時のことがフラッシュバックしてさ。手足が震えだしたりして。それを必死になってアイツらの前では隠してるんだけどさ。多分……、いや、絶対にバレてるんだよな」

雫はどことなく寂し気な表情で語っている。

「もともと、アイツらにオレの過去のこと話したときも、凄い気を使ってくれて。そんな昔の事に意識向けてないで、オレらと一緒に前向いてバカなことやろうぜ! って言ってくれてさ。そっから四人でいろんなバカなことやったなー」

「……」

雫が目を瞑って昔を思い出している。隙しかないが、シルバーはまだ黙って聞いている。

「『駄菓子屋で当たりが出るまで帰れません!』 とか誰が一番クレーンゲーム上手いか勝負したりとか。とにかく思いつく限りのアホなことやってたな」

「……それで? そのおかげで憎しみが和らいだとでも言うのか?」

シルバーがようやく口を開いた。先ほどまでのような苛立ちの感情は読み取れなかった。

「……いや。確かに楽しかったよ。アイツらは感情を無くしたオレに、『楽しさ』を教えてくれた。……でもな。……楽しいって感情を知れば知る程それ以外の……。憎しみ、怒り、悲しみの感情が顕著にわかるようになってきているんだ。……まあつまりだな。話が脱線したが────」

雫は強い気持ちの籠った瞳でシルバーを見つめ返す。

そして

「オレはあの事件を起こした精霊を許さない。必ず見つけ出して、復讐をする」

静かに、また怒りを孕んだイントネーションで雫はそう言い切った。

「……フッ」

シルバーは微笑を浮かべると『何か』を胸ポケットから取り出し、雫に向かって放り投げた。

「おっ!? な、なんだよ……」

突然の事に驚いた雫は刀を落とし、反射的に投げられた物をキャッチする。

「これって……」

手に取ったものをまじまじと眺める雫。それはサイズ数センチのよくあるメモリーカードのようなものであった。

「3人だ」

「えっ?」

突然のシルバーの言葉に首を傾げる雫。

「オレが調べた限り、3人の名前がわかった。そのうちの一人のある程度のデータがそれに入っている」

「……」

そう言われた雫はもう一度手元のメモリーカードを見つめた。そこまで言われたらこれに入っているデータが何なのかがわかる。

「例の事件の首謀者か……!」

「首謀者なのかどうなのかはわからん。調べているうちに出てきた名前がその3人だけだった」

「出てきた名前って……。それじゃあ関係ない奴の可能性も────」

「あるだろうな。しかもその名前からさらに辿って得られたのがその一人の僅かなデータだけだ」

「……なんでこれをオレに?」

雫は怪訝そうに尋ねた。

「興味が湧いた」

「興味?」

雫はより一層怪訝な表情になる。

「数年前まで『息をするだけの人形』のようだった貴様がここまで変わり……。そしてその溢れる憎しみを持ったままどんな結末を迎えるのか。面白そうじゃあないか」

シルバーは手の甲で口元を隠しながら、クックックと笑っていた。

「……趣味が悪いぜ」

「ここでよくある話なら『復讐は良くない』とかなんとか言って止めるのが王道なのだろうが……。貴様とオレはそんな関係でもない」

「だからって推奨するかね……」

「なんだ? 引き留めてほしいのか?」

「冗談。頼まれたってこれは返さねーぜ」

「クックック……。それでいい。楽しみにしているぞ」

「……ところでお前、なんで────」

と、雫が何かを切り出したところで

「ちょーーーっと待ったーーーー!!!」

突然、大声が辺りに響き渡る。近くの木々に留まっていた鳥たちが驚いて飛び去っていった。

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