15
「勘違いするな。褒めてやっているんだ。……だが、そんなことでオレを倒せるのかな?」
「倒すもなにも……。お前らが襲ってこなけりゃオレは平穏を取り戻せるんだけど……、な……」
雫はなんとか立ち上がることができた。だが肩で大きく息をしている。
その様子を見てシルバーが感心したように「ほう」と呟いた。
「もう立ち上がるか。休憩はもういいのか?」
「お客さんを待たせるわけにもいかないんでね……」
雫は大きく息を吸って、そして吐いた。
「しゃあ!! 第二ラウンドだッ!」
再び瞳に闘志を宿した雫を、不思議な目線でシルバーが見つめる。
「な、なんだよ……。仕切りなおしたんだから、そっちも構えろっての……」
バツが悪そうにしている雫を気にした様子も無く、シルバーが話し出す。
「貴様にとって精霊は憎むべき存在のはずだろう。なのに、なぜだ?」
そう言うといきなりシルバーが雫に斬りかかった。
「うおっ! アブな! な、なんの話だよ!?」
間一髪で雫が自分の刀で受け流す。
「オレたち精霊は貴様の過去を破壊した。貴様からすべてを奪ったと言ってもいい。故郷、親、友人……。なのになぜ明白な憎しみを向けてこない? あの女と共に暮らせている?」
シルバーが突然、雫に謎の問いかけをした。
そう言っているあいだもシルバーの攻撃は止まない。再び雫は防戦一方になってしまう。
「あ、あの女? ともに暮らしているって……。ま、マーベルのことか?」
「そうだ。奴も精霊だ。なのに貴様は憎むこともせず、ともに暮らしている。なぜだ?」
「なぜって……」
雫は複雑な表情になった。怒りを含んでいるような、申し訳なさを含んでいるような、妙な表情であった。
「……。……お前には関係ねぇよ!!」
雫はシルバーの刀が引っ込んだ一瞬の隙をついて、刀を×印を書くようにに振るう。さすがのシルバーも攻撃を止め、バックステップで回避した。
「関係ない? なるほど。確かにそうだろうな」
「さ、さっきから何が言いたいんだよ?」
シルバーは不敵な笑みを見せた。さすがに気味が悪くなった雫はシルバーに尋ねる。
「いやなに……。貴様が精霊という種族を恨んでいるのか、それとも例の事件の犯人を恨んでいるのか気になってな」
「……オレは誰も恨んではいない。今はこんな状況になってるけど、そのおかげであのバカ三人とも会うことが出来たしな」
「本当にそうか?」
「……」
雫は答えなかった。答えは言うまでもないということか、それとも……。
「しかしそうか。憎んでいないと言うなら……。オレが手に入れたあの事件の情報も不要になってしまったな」
「……なに?」
途端に雫の顔色が変わった。明らかな怒りと憎しみを含んだ顔つきをしている。
「ハッ。何が誰も憎んでいないだ。お前の表情からは『さっさと仇の情報をよこせ』とはっきりと読み取れるぞ」
「いや……。これは……」
雫はハッとした後に顔を伏せた。自分でもどういう表情をしていたのかわかっていなかったようである。
「正直になれ黒川雫。お前が大人しくユノの言う事を聞いているのももしかしたらあの事件の情報が手に入るかもしれないと考えてのことだろう?」
「……」
顔を伏せたまま、雫は沈黙で答えた。
「別に恥じることはないだろう。憎しみなど誰しも持ち得る可能性がある感情だ。どんな聖人君子も神もな」
「……」
雫はまだ沈黙を続けている。
「お前が素直に憎んでいる事を認めればこの情報をくれてやっても────」
「そうじゃないんだ」
突然、雫がシルバーの言葉を遮って話始めた。
「は?」
「……ああそうだ。お前の言う通りだよ。オレは……、オレの身体は、憎しみで出来ている。あの事件の日からずっと……。今日まで、ぶつけられない怒りをため込んで生きてきた。……でも違う。オレはその感情を持っていることが恥ずかしいんじゃない」
そこで雫はようやく顔を上げた。
「アイツらとバカなことやって毎日過ごして……。それは、本当に楽しかった。心の底から笑うことが出来た。……でもそんな中でもふとした一瞬のときにあのときのことを思い出してしまう。なんていうかな……。たまに自分が作り笑いしているときがあるんだ」
「……」
今度はシルバーの方が無言で聞いていた。
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