10
◇
「まさか湖の中にあるんじゃねぇだろうな」
そう言ってカービーは呆然とした表情で目の前の景色を見つめる。
現在、雫たちはとある異世界、DRNO.10135と呼ばれている異世界に来ていた。
そして目の前には、湖と呼ぶにはあまりにも広すぎる水源が広がっていた。
「湖と呼ぶのが合ってんのかわからないけど。この世界は八割が淡水の水で覆われている世界みたいだな」
雫がポイフォンの画面を見ながらそう言った。画面には昨日、ネスから送ってもらった異世界の情報が表示されていた。
「えぇ……。それじゃあほぼ間違いなく水の中にあるんじゃ……」
勝平が不安そうに湖を覗き込みながらそう言った。
「わぁー!! 見てくださいよ皆さん! メチャクチャ水綺麗ですよ!! 透き通ってて、まるで何も無いみたい!」
「ソフィアちゃんは相変わらずだねぇ」
どことなく不安そうな表情を浮かべる男四人に対して、ソフィア一人は嬉々とした表情で湖を覗き込んでいた。あと一歩踏み出せば落ちてしまいそうなほど近づいている。
「で。どうすんだよ。探すつってもあてはあるのかよ」
「あの大統領サマに座標を教えてもらってはいるけど……。 ……おかしいな」
雫がポイフォンを見ながら首を捻る。
「どうしたのさ大将?」
「いや……。『ここ』なんだよ」
そう言って雫が足元の地面を蹴飛ばす。
「はぁ?」
カービーはわけがわからなそうに雫を見る。ケインと勝平も同じような表情で雫を見ている。
「え、なに。地面の中ってことなのん?」
「いや、上下の座標を見ても土中じゃないな。なんて言うんだろう。地面の上に転がってた、っていうのが正しいんじゃないか」
「そんなまさか。だって────」
勝平は辺りを見渡す。八割が水で覆われていると言っていたが、現在雫たちがいる場所には地面もそこそこ広がっている。樹木も生えており平坦な、見晴らしのいい、コテージを建てるには絶好の場所であった。
だからこそ
「それっぽい物、ないよ?」
どこを見ても地面は緑に覆われており、昨日見せられた戦車の弾のような物騒な物はどこにも見当たらなかった。
「おいおい。壊れてんじゃねぇのかその神機」
「貰ったデータそのまま表示してるんだから壊れたもなにもないだろ。ありえるとしたら座標が間違っているって可能性が────」
そこまで喋り、いきなり雫が黙った。何やら慌てたようにポイフォンを操作している。
「どしたの」
「……今試しに衡神力が残留してないか調べたんだけど。この場所に何かがあったのは確かだな」
「『あった』? 過去形じゃないの」
「ああ。この場所に長い間放置されていた、衡神力を発するものがついさっきどこかに移動した」
「移動したって。生物じゃないんだから」
「そうだよ。つまり誰かが持っていったってことになるな」
「さっすが大将!! 名推理!!」
「よせやい。褒めるなって」
「「……」」
おちゃらけたケインとそれに乗っかった雫。しょうもない猿芝居の後、その場に沈黙が流れた。
「ねえ雫君。なんだか嫌な予感が────」
「やめてくれ勝平。お前の嫌な予感は当たるだろ」
そのとき
「随分と気付くまで時間がかかったな」
声音は低く、だがハッキリと通る声が聞こえた。
「やっぱりーーーー!!」
「オメェのせいだぞ勝平!! 不吉な事言いやがって!!」
「理不尽だよ!」
「ソフィアちゃん立って! 敵襲だよッ!!」
「え、ええッ!?」
一瞬で雫たちに緊張が────というよりも混乱が襲った。ケインが慌ててソフィアの手首を掴んで立たせる。
「どこだ!! 出てこい!!」
雫が辺りを見渡すが視界に入る限りでは人影は見当たらなかった。
「ずっとここにいたさ」
すると辺りで一番背の高い木が大きく揺れた。そして枝をかき分けて、一人の人物が飛び降りてきた。
「この距離で気付かないとは……。さすがに呆れるな」
長く、美しい銀髪をなびかせながら着地した人物は冷たい眼差しで雫を見ていた。
「シルバー……!!」
雫が苦虫を嚙み潰したような表情でそう呟いた。
「……」
降りてきた人物。
凛々しく、整った顔は良く言えばクール、悪く言えば冷たい表情をしていた。そしてどことなく不機嫌そうな顔つきの女性、シルバーエースは無言で雫を睨みつける。
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