5

 ◇

国政総務調律機関本部パンドラ 地下駐車場にて

「黒川君はまだ時間かかりそうかしら?」

少し離れた場所にいる雫を見ながら、ネスがそう言った。

「なんか昔の友達から定期報告? の電話かかってきただけらしいんで直ぐに終わると思いますよ」

勝平がネスの問いかけに答える。離れた場所にいるせいでハッキリと通話内容が聞こえないが、スマホを耳に当てている雫は「────だよ。ちゃんと食べてるって」「────なんも────起こしてないって」とどこか迷惑そうに電話の受け答えをしていた。

「ネスさん、ネスさん!! ちょっといいですか!?」

ソフィアが興奮気味にネスに訊ねる。

「どうしたの、ソフィアちゃん?」

「あの、私! 神霊世界を散策してみたいです!!」

目を輝かせながらそうソフィアは言った。

「あー。んー……。散策かぁ」

ネスは困ったような表情で腕を組んだ。

「ユノから貴方たちを真っ直ぐ元の世界に送るように釘を刺されてるのよね」

「ええ~。そうなんですかぁ……」

ソフィアはガックリと肩を落とした。

「未来の世界に来たみたいですっごくワクワクしたんですけど……」

「う~ん、そう言われてもねぇ」

ネスは困ったように苦笑いしていたが突然、「あっそうだ!」と何かを思いついたようであった。

「世界間交通移動センターの中だったら少しだけ探検していいわよ。あの中もショップとかいろいろ揃ってるから。……もちろん私と一緒にだけどね」

「えっ!? いいんですか? わーい!」

ソフィアは嬉しそうに笑顔で万歳をした。

「……ネスさん、いいのん?」

ケインがコソッとネスに話しかける。

「何が?」

「いや、ユノさんから真っ直ぐ帰らせるように言われてるし……」

「ああー、まあ……。世界間交通移動センターには連れてってるからセーフってことで!」

「テキトーっすねぇ。あとそれと。多分ソフィアちゃん、探検中に暴走するけど大丈夫っすか」

「おてんばなのね……。貴方たちも一緒に見張ってて欲しいわ。許可出さないで勝手に行かれるよりはマシだと思ったんだけども」

「了解ッス」

浮かれ気分でニヤニヤしているソフィアを見ながら、ネスとケインはため息をついた。

「スマン、待たせた」

そうこうしているあいだにちょうどいいタイミングで雫が戻ってきた。「俺らの世界と神霊世界って電波繋がるのかよ」「なんか繋がったな」とカービーと雫が言葉を交わす。

「さてと。それじゃあ行きましょうかしら」

ネスが手に持っている小さいスイッチのような物を押すと、駐車場の奥の方からこのあいだも見た、自動車のようなものが近づいてきた。

 ◇

世界間交通移動センターにて

「ネスさんとソフィアさんはどこまで買い物に行ったんだ……」

雫がため息交じりにそう言う。

男四人は人通りの激しい通りに設置されているベンチに座っていた。

「さっきから視線が……。な、なんか悪いことしてるみたいで恥ずかしいよ……」

勝平が恥ずかしそうに視線を伏せる。

「クソが……。ガン飛ばされるんじゃなくて奇妙なモノでも見るような目つきなのも気に入らねぇ」

普段、堂々としているカービーも落ち着かないのか貧乏ゆすりをしたり手の組み方を変えたりしている。

「何言ってんのサ、二人とも! カワイ子ちゃんがオレっち達に興味を持ってくれているんだZE? 喜ばしいことじゃないか!」

ケインただ一人だけはいつもの調子であった。……もっとも、積極的に声をかけに行っていないので緊張はしているのかもしれないが。

「バカはほっといて。ところでよぉ、雫。やっぱり妙じゃねぇか?」

カービーがケインを無視して雫に話しかける。

「マーベルと大佐のことだろ?」

そう聞かれるのがわかっていたかのように雫がサラリと答える。

「雫君、カマかけてたもんね」

勝平が少しだけ顔を上げて会話に参加する。

「ああ。何回かマーベルの名前を出したけど、アイツは誰か訊ねずに聞き流してた。……つまり、意図的にマーベルと大佐を省いてた」

「俺がわざわざ最後に聞いてやったときもなんか誤魔化すようだったよな。……どういうこった?」

「わからん。大佐はあの件があるからしょうがないとしても、なんでマーベルを省く必要があるんだ。……言い方は悪いが、精霊側からすればオレに協力している時点で重要人物だろ」

「……もともと神霊世界の政府の人で最初から雫君に近づく任務だったとか?」

勝平が恐る恐る訊ねる。

「いや、ない。それはない」

雫はキッパリと言い切った。

「随分信頼してるじゃねぇか」

「……何年一緒に暮らしてると思ってるんだ」

「信頼する要素それだけかよ」

「……そもそも。だとしてもこのタイミングでオレを神霊世界に関わらせる意味がわからん。マーベルだって個人的な人づてで色々調べてくれているし。あの大統領サマのお友達ではないだろ」

雫はマーベルに大きな信頼を寄せているようであった。

「でも雫君の言いたいことはわかるよ。僕もマーベルさんは隠し事するような人じゃないと思うな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る