21

「そんな……。誰が精霊さんだったんだろう……。……え。というか────」

ソフィアは考え込む素振りを見せたと思ったらすぐにハッとした表情になった。

「精霊さんって普通にこの世界にいるんですか?」

「決して多くはないけどね。アルノードに興味がある精霊や単に仕事で異世界に住んでいる精霊はいる。その全てはアルノードに成りすまして生活しているんだ」

「それじゃあ……私みたいな半精霊化した人間も同じくらいいるってことですか?」

「衡神力に対して抵抗力があるアルノードはそれこそ精霊と接する機会が多い人ほどいるだろう。だが、半精霊化にはさっきも言ったけど身体に抵抗力がある状態でさらに多くの衡神力に触れている必要があるんだ。そんな機会のある人物はほんとうに一握りだろう」

「さらに多くの衡神力、って……。具体的にどういうときなんですか? 心当たりが無いんですけど……」

「そうだな……。例えばなにか強い力を持った神機に日常的に触れる、もしくは精霊同士の戦闘事を間近で見る、とかかな」

「神機のほうはともかく、戦闘のほうは全く心当たりがありませんよ……」

「とにかく、だ」

そう言って立ち上がった雫がソフィアの目の前までやってきた。

「な、なんですか?」

「……どうせソフィアさんはもう引き下がる気はないんでしょ?」

「そ、そうですよ! 半精霊化しちゃってますし、テトラさんだって神機はもたせた方がいいって言ってたじゃないですか!」

雫は「……ハァ」と諦めたようにため息をついた。

「ソフィアさんが昔から精霊と関わっていたってことは、この出会いは運命だったのかもしれないな……」

「えっ?」

「ソフィアさん、アナタに神機を渡すよ。今後、なにかあってもそれで自衛してくれ」

「……え。……やったー!! 仲間に入れてくれるんですね!? そうなんですね!」

ソフィアは嬉しそうに雫に抱きついた。

「ちょ、ちょっと……」

雫は照れてか顔を赤くする。そんな雫の横顔をマーベルがジーッと見ていた。

「……ソフィア・ヴェジネ。とりあえずこっちに来てくれ。神機を見せたい」

「あ、はい」

ソフィアは雫から離れるとマーベルの後ろについて部屋を出て行く。

「キミは槍を持ったことはあるかな?」

「いや~ないですけどね~」

「ちょっと待てマーベル!! もしかしてアレを渡すつもりなのか!?」

その後を慌てた様子で雫が追いかけていく。

「……行ってしまったね」

途端に静かになった部屋で美智がボソッと呟く。

「なんにせよ、神霊世界のお偉いさんの話だともともとソフィアちゃんも巻き込まれる的な感じじゃなかった?」

「そうみたいだよね。雫君はなんとかしてヴェジネさんを関わらせないようにしたかったみたいだけど」

「ま、いいんじゃねえか? 雫の言ってたとおりこうなるように出来てたのかもしれねぇし」

それぞれ思い思いにくつろいでいる男三人がそう言った。

「そう言えばここ数日、美弥子君を見てないんだけど。だれか知ってるかな?」

「美弥子のやつ、同窓会だかなんだかで一週間くらい帰るって言ってたんで、神霊世界にいるんじゃないっすか?」

「そうそう。ミヤちゃん、友達と旅行行くって言ってたねぇ」

「その話、私は知らないんだけど……」

「大佐は神出鬼没だから言う機会なかったんじゃないんですか」

落ち込んでいる美智に、苦笑しながら勝平がフォローを入れた。

 ◇

「これからどこに行くんですか?」

「私の研究室だ」

リビングから出た三人は真っ直ぐな廊下を進み、行き止まりまで来た。部屋も何もないところで止まったせいかソフィアが不思議そうにあたりを見渡す。

「えーっと、研究室はどこに……?」

「ここだよ」

そう言ってマーベルが突き当りの壁に手をかざした。するとその壁全体が淡く光り、近未来的な扉が現れた。

「おお……っ! こ、これも神機なんですか?」

「そうだね。精霊が関わっているあらゆるものは神機といってもいい」

マーベルが扉に再び手をかざすとカシャッという音と共に扉が開いた。

「さあ入ってくれ」

マーベルは先に部屋に入ると二人を手招きする。

「お、お邪魔しま~す……」

「さっきぶり~」

ソフィアと雫がバラバラな事を言って部屋に入っていく。

「うわっ……! す、凄い……!」

ソフィアはあっけに取られてその場に立ち止まっていた。

部屋の中はまさに研究所といった様相であった。かなり広めの部屋に使い方が皆目見当がつかないような機械がそこら中に設置してある。理科の実験で使うような薬品が入った棚も部屋の隅に設置してあった。

「ん……? これは……」

その中でソフィアの視線を釘付けにしたものがあった。それは壁の一角に作られていたガラスケースのようなものであった。中には────、一目で武器とわかる物が収められていた。

「ああ、それはオレたちの神機、つまり武器さ。右から順番にオレ、カービー、勝平、ケインの神機となっておりま~す」

そう言いながら雫は一つづつガラスケースの中の物を指差していた。

「す、凄いですね……。あっ、これさっきのやつ」

よく見るとガラスケースの中は仕切りがされており、四つの区画に分かれていた。

一番右には先ほど雫が握っていた二本の刀が収められていた。


その横には二メートルはあろうかという巨大ななにか────、いや、剣が置いてあった。かろうじて剣と認識できたのは、左右に伸びた鍔が確認できたからである。刀身自体は四角い形をしており、羽子板のような形をしていた。


さらにその横には太い鉄パイプのようなものが二つくっついている代物が計四つ並んでいた。よく見ると細かい違いがあり、空洞の筒が二つ並んでいる物と、先端に太いスパイクが付いている物の二種類あるようであった。


その謎の物体の横のスペースには────、一目で銃とわかる物が置いてあった。だがその大きさは人の背丈ほどはあり、かなりゴツゴツした見た目をしている。まるでロケットランチャーのような外見であった。

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