15

 ◇

カービー達から少し離れた場所にて

「……」

「……ッ!!」

キィン、ギィンという鉄同士がぶつかるような音が連続で鳴り響いていた。

「どうした? その立派な刀はただの重りか?」

「ぐっ……」

音の中心部にいたのはバンテージと美智であった。

そしてその音の正体はお互いの持っている刀がぶつかり合っている音だった。

「成長しただのなんだのと言っていたが、なるほど。確かに前よりは太刀筋が鋭くはなっている。だが────」

つらつらと喋りながらも攻撃の手を緩めないバンテージ。

「それでもまだ私には到底及ばない」

バンテージが素早い突きを繰り出す。

「しまっ────」

美智は自分の刀で軌道を横に逸らそうとする。

だが遅かった。

「ウッ……!」

タイミングが遅れ、逸らしきれなかった剣先は美智の胴体の真ん中を外れたが、脇腹を浅く通り抜けた。

一瞬、痛みで足元がぐらつく。

「そらっ」

「グゥッ!!」

その隙を見逃さなかったバンテージは美智の腹を蹴り飛ばす。美智の身体は後方に吹き飛ばされたが、なんとか倒れずに踏ん張った。

(正直に言って敵うとは思っていなかったけど……。まさかここまで防戦一方になるとは……)

歯を食いしばって痛みをこらえながら美智は刀を構え直す。

(少しは食い下がれるかと思ってたけども、まだまだ彼女は本気ではなかったってことだね)

美智は大きく息を吸い込み、少し呼吸を止めた。

そして息を吐きだした。

「どうする? ここで切り殺されるか、またいつもみたいに尻尾巻いてさっさと逃げるか?」

「ふふふ……。さて、どうしようかな……」

挑発のような言葉を投げかけてくるバンテージに、美智は困ったような表情で返した。

(このまま続けても勝てないだろうし……。ワンチャンに賭けてみるかな)

美智はゆっくりと瞳を閉じると、刀を腰の鞘に納刀した。

 ◇

「掛け声は? よーいドン、でいいの?」

「へっ。いらねーよ。そっちのタイミングで始めろ」

「ダメよ! それじゃ公平じゃないじゃない! ……そこのアルノード2人! 開始の合図をしなさい!」

「「えーーー……」」

ケインと勝平は心底嫌そうに返事をした。

「えー、じゃないわよ! このアタシがやれって言ってんのよ!!」

「しょうがないにゃあ……」

ケインが面倒くさそうに立ち上がった。

現在、カービーとイーリスはお互いに向き合って立っている。そして互いの両手を左右それぞれ、まるで恋人のように絡ませて組んでいる。ロマンティックな雰囲気はかけらもないが。

「アンタなんか、もう歩けなくなるぐらいまで背骨を逆折りにしてやるわ!!」

「ほぉー。その身長でどうやって鯖折りする気なんだか」

「また小さいって言ったわね!! ムキィーーーー!!」

向かい合っていると表現したが、その構図はカービーがイーリスを見下ろしている状態である。

2人の身長差は軽く見ても40㎝以上はある様子であった。

「はい、よーいドン」

「「いきなり!?」」

なんの前触れもなく、ケインはいきなりスタートの合図を出した。面食らったカービーとイーリスは思わずツッコミを入れる。

「ほらさっさと決着つけちゃってよー」

勝平がのんびりした口調で急かしてくる。

「く、クソッ……! なんか気ィ抜けた始まりになっちまったが……」

「しょ、勝負開始よッ!!」

2人はほぼ同時に両手に力を入れ始める。

「どうよ! アルノードごときには耐えられないでしょう!?」

「ハァ!? これで力入ってんのかよ! さっきと変わんねぇーなー!!」

「はぁ!? アンタこそこれで全力? 赤ちゃんと変わらないわね!!」

「あぁ!? まだ10パーセントも全力出してねーよ! そっちこそガキと手ェ繋いでんじゃねぇんだぞ!!」

「なによ! アタシなんて5パーセントも力出してないんですけど!?」

お互いに罵倒しあっているが、両者の手元は震えていた。二人の言葉以外に音は出ていなかったがもし、押し合いをしている手元に効果音を付けるとしたら「ギリギリギリギリ……」という音が最適だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る