14
◇
「ハァ……ハァ……。クッソォ……」
息を切らせながらイーリスがハンマーを振り回す。だがその速度は戦闘が始まった頃と比べて、明らかにスピードが落ちていた。
「ほらよ!」
「クッ……」
カービーのグレモールとイーリスのハンマーがぶつかり合い、鈍い音が響く。先ほどとは違い、勢いは完全にカービーに負けている。
「ひ、卑怯よアンタたち!! 三人がかりで来て! 恥ずかしいと思わないの!?」
「さっきまであんなに勢いがあったのに……」
「そもそも三人まとめてブッ飛ばすって言ってなかったっけ?」
少しだけ離れた場所にいたケインと勝平はボソッとそんな事を言う。
「ハァ、この……。調子に乗んじゃないわよ……! ハァ……」
ガンガン攻撃を当てに行っているカービーと違い、ケインと勝平の二人はイーリスに当たらないように攻撃を加減していた。それに気づかずに必死に回避をしているせいでイーリスのスタミナはもう空になっていた。
「どうしたクソガキ? ギブアップするかぁ?」
カービーが挑発するようにそう言った。
「ふざっけんじゃないわよ!! アンタ一人だけだったらアタシの圧勝だっての!」
「へぇ……?」
カービーは不敵に笑うとグレモールから手を離した。重力に従って地面に落ちたグレモールがガシャンと音を立てる。
「だったらよぉ、シンプルに力比べと行こうじゃねぇか」
「ハァ?」
攻撃が止み、ようやく一息ついたイーリスが肩で呼吸をしながらカービーを不思議そうに見る。
「俺とお前。一対一の力比べだ。やり方はコイツでな」
そう言うとカービーは足を少し左右に開き、両手を正面に突き出した。指の間は広げている。
「……なんでそんなことしなきゃいけないのよ」
カービーの行動の意図を理解したイーリスが聞き返す。それに対してカービーは再びニヤリと笑った。
「自慢じゃねぇが俺は腕力には自信がある。今までどんなヤローとの力比べでも圧勝してきた」
「だったらなんだっていうのよ」
「クソガキ。テメーも腕力には自信があるんだろ?」
「……別に。そんなこと考えたことないし」
「謙遜すんな。闘ってりゃあわかるぜ。俺と正面からまともに打ち合いできるのはテメーだけだ」
「……」
イーリスは不機嫌そうにカービーを見ている。
「いろんな意味でショックを受けたぜ……。もう誰も俺に勝てる奴はいねぇと思ってたんだ。衡神力があるとはいえ精霊ですら超えたと思っていたらよぉ。……俺よりもだいぶチイセェくせにバカみたいなパワーがあるやつが現れてよ」
「……!」
小さい、という言葉に反応したのか、イーリスの眉毛がピクリと動く。
「正直、お前らに襲われてるときにもずっと考えてたぜ。俺とお前、どっちの方がツエェのか」
「……バッカじゃないの? くだらないわ」
「オイオイ。どっちが強いか気にならねぇのか? 普段の負けず嫌いはどうしたよ」
「……別にアタシは好きでこんな腕力身に着けたんじゃないわ」
イーリスにそう言われたカービーはつまらなそうに舌打ちした。
「あそう。じゃあ別にいいぜ。その代わり────」
カービーは心底意地悪そうにニヤリと笑った。
「お前は一対一で俺と闘って無残に惨敗した負け犬って言われ続けることになるがな」
「ハァ!? なんでそうなるのよ!!」
「そうだろ? だって俺からの挑戦を棄権したってことは俺の不戦勝だぜ。大人しく神霊世界に帰ってお仲間に慰めてもらえよ、お・チ・ビ・ちゃん?」
「……!!」
イーリスは顔を真っ赤にして震えていた。もちろん怒りによってである。
「いいわよ!! やってやろうじゃないの! そのかわり! アンタが負けたらアタシに土下座しなさいよねッ!!」
「ヘッ……。上等だぜ」
イーリスはハンマーを投げ捨てると、ズンズンとカービーの目の前まで歩いていった。そして自分も両手を突き出し、カービーと手を合わせて対峙した。
「……オレっちたちどうする?」
「……座って休んでようか」
すっかり蚊帳の外になってしまったケインと勝平は暇そうに地面に座り込んだ。
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