13

「て、テトラさん!? 大丈夫なんですか……?」

不安定な砂地を転びそうになりながらソフィアがテトラに駆け寄る。

「グッ……! 頭が……痛い……」

「そりゃそうですって!!」

ソフィアはふらついているテトラの腕を取り、自分の肩へとまわした。

「そもそも頭が痛いってどころの怪我じゃないように見えたんですけど……」

「……」

ソフィアからの言葉に反応を示さないテトラ。ソフィアは気にせずに雫の方に向かって歩き出した。

「よーし、準備オッケー。……って、ソフィアさんなにしてんの」

立ち上がった雫はテトラと共にこちらに近づいてきているソフィアに気が付き、少し呆れたような表情になった。

「いつの間にかいなくなってるし、あなた本当に気配消すの上手いね」

「そんなことよりもッ!」

のんびりしている雫に少し苛立ちを感じながら、ソフィアは雫の目の前まで来た。テトラを抱えたまま。

「よくわかんないですけどテトラさんが苦しそうなんですよ! なんとかできませんか?」

「なんとかって……。ソイツはオレにとって敵だぜ? なんでいちいち敵を助けなきゃいけないんだよ。……それにそもそもソイツは────」

「お願いします黒川君! セイレイさんが黒川君を狙ってるのもわかってます! ……だけどテトラさんはせっかく仲良くなった人ですし……」

雫の言葉を遮ってソフィアは勢いよくそう捲し立てた。

「ハァ……」

雫は口元をへの字にしながら面倒くさそうにため息をついた。

「……とりあえずそこに座らせてくれ、ソフィアさん。……治療なんて出来ないぞ。マーベルの真似事しかな」

「黒川君……!」

ソフィアは急いでテトラを地面に座らせる。相変わらず苦しそうに頭を抱えている。

「……確かになんか変だな。いつのもコイツなら『再生』した後もテンション変わらずワイワイしてるのに」

「サイセイ……?」

もう自分の知らない言葉が出てくるのにソフィアは慣れつつあった。とにかく疑問は後にして、目の前に友達になれるかもしれない人を助けなくては。

「おい、テトラ。大丈夫か?……いやまあ敵にこんなこと聞くのもおかしな話だが」

「……」

だがテトラは雫の問いかけに答えずに苦しそうな表情で雫を真っ直ぐに見ていた。

「『異能精霊』なんてマーベルからの話とお前らクロックナンバーくらいしか知らないからなぁ。……どうしたもんか」

「な、なんかクスリとかないんですか? 頭痛そうですし、頭痛薬とか?」

また初めて聞く単語が出てきたが、もうソフィアは気にしないようにした。あとでまとめて聞けばいい。いまはそれよりも目の前の緊急事態だ。

「うーん……。コイツ、前に自分から薬は効き目がないって言ってたような気がしたけど……。とりあえず試してみるか」

雫が制服のポケットを漁り始める。

そのとき

「……」

テトラがゆっくりと、ふらつきながら立ち上がった。

「テトラさん!?」

ソフィアが驚いた声を出す。

だが、テトラは二人の様子を気に掛けることもなく、二人に背を向けて歩き出してしまった。

「おいおい。大丈夫かよ」

さすがに様子がおかしいと思ったのか、雫が後を追おうとする。

テトラは右腕を横に伸ばして雫を静止する。

「……お、お前の言う通り……私に薬は効果がない……」

「お、おう……そうか」

やっと会話が出来たと思ったらそんな事をテトラは言い出した。雫は反応に困っている。

「……た、体調が……悪いから……きょ、今日はこの辺で……帰らせてもらう……」

「お前から誘拐しといてなに言ってんだか」

「私から……? そ、そうか……。そんな日もあるか……」

「……お前、本当に大丈夫かよ? 明らかに様子が変だけど」

「も、問題……ない……」

会話をしながらもテトラは歩みを止めずに雫たちから離れていく。

だがあるところでテトラは立ち止まった。

「そっちの……、えっと……。ソフィア……ヴェジネ……?」

「は、ハイ!?」

突然名前を呼ばれたソフィアは驚いて気を付けをする。

「その……ありがとう……。……なんだぜ」

「へっ?」

振り向かずに、ぎこちなくそれだけ言うと再び歩き始めるテトラ。

「なんだアイツ……。あんなの、今までに見たことが無いぞ」

去り行くテトラの後ろ姿を呆然と雫は眺めていた。

「あの、黒川君……。いいんですか? あのままで……」

このまま留まるべきか、テトラを追うべきか、ソフィアは悩んで知るようであった。

「……本人が大丈夫って言ってるんだからほっといていいよ。歩けるんだから自分で帰れるはずさ。……それに下手に付いて行ってアイツの仲間にでも鉢合わせたらこっちが殺されるよ」

「そう……ですかね……?」

「ああ。それに────」

雫はそこまで話してから一度口をつぐみ、不機嫌そうな表情で続けた。

「アイツは『敵』なんだ。オレを殺そうとしてくる無慈悲な連中。それ以外の何者でもないよ」

「……はい」

どこか納得のいかない表情をしながらもソフィアは頷いた。

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