13
「うーん……。あっ、ここってどこなんですか? ニッポン……、じゃないですよね。アマゾンとかのジャングルですか?」
「ソフィアちゃん、ブッブー。残念でしたー。そもそもここは地球ではないよん」
「ええっ!!? じゃ、じゃあ宇宙のどっかの星なんですか……?」
「そいつも間違いだ。そんな規模の話じゃねぇ。ここはな……」
そう言っている途中でカービーは両腕を広げた。
「俺たちのいる世界とは違う世界。異世界だ」
「……異世界?」
ソフィアは口を開けてポカンとする。あまりにカービー言った言葉がアバウト過ぎて頭の理解が追い付いていなかった。
「えーっと……。異世界というとあれですか? あの、漫画とかアニメでよくある魔法とかドラゴンとか出てくるような?」
「そうだね。そういう世界もあったね。あの時はいろいろと大変だったー」
勝平が思い出にふけるように目を閉じて頷いている。
「ま、オレっちたちとソフィアちゃんの今いるこの世界は、残念ながらニンゲンみたいな生物はいないけどねー」
「は、はあ……? えーっとつまりこの星はこんなジャングルばかりの場所ってことですか?」
「そうだが、星かどうかはわかんねぇけどな。俺らが知ってる中でも宇宙が無い世界はいくつもあったっぜ」
「うーん……わかったようなわからないような……」
ソフィアが腕を組んでウーンウーンと唸っている。もうすでに正座は解けて女の子座りになってしまっていた。
「理解しようとすんな。そういうもんだって思っときゃいい。俺らだって理解すんのにだいぶ時間かかったんだぜ?」
「そうそう。いきなり言われたって混乱しちゃうよねー」
さっきまでのソフィアが現れたときの緊張した空気はどこへやら、三人は和やかな雰囲気でソフィアに説明していた。誤魔化すのを完全に諦めたからであろうか。
「そう……、ですね……。えっとそれじゃあ次の質問なんですが……」
言葉を続ける前にソフィアが緊張してゴクッと喉を鳴らした。
「三人は……。いや、黒川君も入れて四人ですね。四人は、ニンゲン、なんですか?」
「「「……」」」
その質問をされると三人は答えずに黙ってしまった。重くなった空気を察したソフィアが慌てて付け加えた。
「ああ、いえ……。答えずらいんでしたら、答えなくても……」
「いや……。俺らは人間なんだが……」
「?」
ソフィアがキョトンとする。
「その質問をするのはしょうがないよねぇ。こんなことやってんだから、ただの人間に見えるわけないし。うーん、どうすればいいのか……。精霊についても説明したほうがいいのかなぁ」
ケインがどうしたものかと悩んでいる。
「セイレイ……?」
聞きなれない新しい言葉ばかりで、ソフィアの頭の中はショート寸前になっていた。思えば昨日からわけのわからない単語しか聞いてない。それらの説明もまだ受けていないのにさらに新しい言葉を聞いてしまったら、もうパニック寸前である。
「精霊っていうのはね……。ああ、どうやって説明したものか……」
勝平が頭を抱えている。それを見てカービーとケインの二人も顔を見合わせる。うまく説明できる言葉が見つからないようである。
「なんつーかな。精霊っていうのは俺らとは別の世界に住んでる人間みたいなもんだ」
「別の世界の人間……、ですか?」
「あー……、その表現も間違ってるとは思うんだがな。とりあえずそういうもんだと思ってくれや」
「はい」
「で、奴ら精霊はな。俺ら人間より上位のイキモンだと思っていやがる。人間なんて下等生物だってな。ムカつくだろ?」
「はぁ……、よくわからないですけど……。せ、セイレイが上位で……。人間が下位で……? す、すいません、なんのことですか……?」
ソフィアは目が渦巻きになっており、明らかに混乱しているようである。さらに頭自体もグワングワンと回転している。
「ダメだってカービー。一気に説明したからソフィアちゃん混乱しちゃってるよ」
「今の説明だと僕でも混乱するだろうなー……」
カービーがチッと舌打ちをしながら地面を蹴飛ばした。
「しょうがねぇだろが。時間もネェし、うまく説明できねぇ」
「えーっとえーっと……。すみません、よくわかんないんですが……」
ソフィアが申し訳なさそうにそう言った。
「しょうがないってソフィアちゃん。詳しくは元の世界に帰ったら詳しく教えてあげるからさ」
「は、はい……。あっそれで次の質問なんですが……」
「うん」
「なんでこの世界に来たんですか? 確か来る途中に黒川君を探してるって言ってましたよね? ……途中で見たあの大きな血だまりも気になりますし……」
「フムフム。いい質問だねぇソフィアちゃん。それに答えると一気に話が進むよん」
「そうなんですか?」
「うん。まずね、単刀直入に言うと大将こと黒川雫は精霊に命を狙われているのだ!」
「え、えぇ!? 命を狙われている!?」
ソフィアがビックリして目を丸くした。日常生活ではまず聞くことが無い物騒な言葉である。
「ケイン君も今言ったけど。精霊って人たちから雫君が狙われててね。雫君はそれに抵抗してて、僕たちはそれを助けてるんだ」
「はあ……。えっとじゃああの血だまりは……」
「ああ、雫が精霊に襲われた後だろうな」
そう聞いてソフィアが勢いよく立ち上がった。
「えぇ!! 大変じゃないですか! 早く黒川君を助けないと!」
カービーがハァとため息をついた。
「その急いでるときにアンタが来ちまって、こうして時間食ってるわけなんだが」
「す、すいません……。でも、三人とも流石にのんびりしすぎじゃないですか? あんな出血してる状態でいつまで持つか……」
「ん? ああ、大丈夫だ。アイツはバカで頑丈だからな。それに────」
「だ、だからって……」
と、その時
カービーの背後の茂みからガサゴソと音がした。
「「「ッ!!」」」
カービー、ケイン、勝平の三人は慌てて振り返った。
すると茂みの中から人影が現れた。
「ヘッ……。そのバカで頑丈な奴が出てきてやったぜ……」
現れた人物は雫であった。パッと見ただけでも服はボロボロで体中に傷があるというさんざんな状態であった。
「「雫(君)ッ!!」」「大将!!」
三人が雫に駆け寄った。
「おう、やっぱり無事だったか。まあテメェがそう簡単に死ぬようなタマじゃねえょな」
「よかったよー、雫君。流石に連絡なかったから心配しちゃったよ」
「いやー大将が無事で何より何より! こんなとこまで来たかいがあったぜい」
三人がそれぞれ雫に声をかける。すると雫は安心したような表情を見せ、その場にへたり込んでしまう。
「だ、大丈夫? 雫君」
「ご覧の通り、大丈夫とは言えないな。それよりも……」
そう言って雫はソフィアの方を向いた。
「なんであなたがここにいるんだい? ソフィアさん」
「いや~。な、なんででしょうね?」
ソフィアはテヘヘと誤魔化すように笑う。
「お前らが連れてきたのかい?」
「ちげぇよ。こいつが勝手についてきやがったんだ」
「ついてきたって……。昨日あんなことがあったのに不注意すぎるだろ」
「それ言われるとなんも言い返せねぇんだが……」
「まあでも、オレっちたちの不注意なのは間違いないからねぇ。……ほら大将、怪我の手当てするよ」
そう言ってケインがポケットから名刺入れのような小さい箱を取り出した。
「いや、ここではいい。まだ安全じゃないからな。さっさと元の世界に戻ろう」
雫は立ち上がり尻に付いた砂を払った。
「そう言えば大将、なんで帰ってこなかったの?」
「帰って来れなかったんだよ。逃げてる途中で異世界渡航機が壊されちゃって」
「壊されたって……。やっぱり精霊から追われてたのん?」
「ああ。……それもよりにもよって『包帯女』にだ」
「ゲッ! アイツかよぉ!」
「これは……。面倒な事になったね……」
雫から包帯女という言葉を聞いた途端、ケイン、勝平、カービー三人の表情が曇った。
「まだ近くにいやがるのか?」
「撒くには撒いたんだが……。油断はできないな」
「雫君、よく無事に逃げ切れたね」
「無事なもんか! 一度『殺され』ちまったよ! それでなんとか逃げ切ったんだ」
雫が見ろと言わんばかりに両腕を広げる。よく見ると雫の着ている上着は下半分が無くなっていた。
「ならさっさと帰ろうよ。僕たち武器も何も持ってないんだから」
「ああ。ソフィアさんについても元の世界に帰ってからゆっくりと聞かせてもらうよ」
「特に話すことは無ぇんだがな……」
そう言ってカービーが首をポキポキと鳴らす。
「じゃあ準備するよん」
と、ケインが異世界渡航機を広げようとしたそのとき
「随分とゆっくりしているじゃあないか。なんなら私も仲間に入れてくれよ」
突然どこからか声が聞こえてきた。その声は深く暗い声色をしていた。
「「「「!!!」」」」
雫たちに一瞬で緊張が走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます