それは、少しの休憩。

「ねーえーまーだーなーのーおー?!」


「うるさぁーい…」


「早く会いたいー!!」


「ねぇよーちゃ…」


「放っておけ」


「よーちゃん僕と話したくないの……?」


 暫く前から響き渡る叫びに耳を塞いで嫌がるゆたゆき。耐えきれずにはなよいへ助けを求めるも、言い終わる前に遮られ、解決にならない解決策を出されて会話は強制終了した。

 騒音の元凶である探偵所事務員“ひな”は、今にも床に寝そべってジタバタと暴れそうな勢いがあって落ち着きがなく、優斗が外出中のためもう叫ぶのを止める方法がなくなりかけている。というかもうゼロと言っても過言ではない。


「ちょっと優斗遅くない?! ねぇ! きーちゃんゆーと何処行ったのー?!」


「うぐぇっ、ちょ、ぐるし……っ」


「早くいっちゃんに会ーいーたーいー!」


「くる……も、くるがらっ……ぐえっ」


 ひなの暴走に巻き込まれ、襟を掴まれてブンブン振り回されるゆたゆきを眺めながら、はなよいはやれやれと溜め息をついた。普段は流石にここまで暴れないのだが、新しく事務員、しかも人間が入ってくるとなり、待ちに待ってやっと今日会えるためにここまでテンションが上がっているようなのだ。

 人間もとい琴乃が入ることに反対しているはなよいからすれば、ひなのその気持ちは共感しがたいものだし、今のひなに多少の苛立ちを感じているので止めたいとは思っている。が、自分もゆたゆきと同じ目に遭うのはいやなので、放っておいているわけで。


「ねーえーなんで二人はもう会ってるの?! いーなーいーなー! とくによーちゃん!! なんであんなに嫌がってたのに会えちゃってるのー?!」


「偶然会っただけだ」


「うっそだぁー。よーちゃん自分から会いに来てたジャーン」


「お前っ!」


「あぁーほらなーんーでー!! ほんとは入ってくるの嬉しいのー?! ねー!!」


「っぐぇ、動かさないでお願いだから……あわよくば手離して……」


「いい加減少し落ちつけ騒がしい」


「あー逃げたー!! やっぱりそーなんだー!!」


「……」


 結局ひなに絡まれてしまい心底嫌そうな顔をしながら適当に答えたが、はなよいも巻き込むこのチャンスを逃がすまいとゆたゆきが口を挟んだのもあり、ひなはウザ絡み気味に同じような質問を繰り返した。

 そしてその会話は、はなよいの額にいくつか血管が浮かんだあたりに玄関のドアについているベルの音のお陰で、平和な状態で終了した。


「お待たせー」


「あーおかえりゆーとー!」


「ぐえっ」


「ねえいっちゃんは! いっちゃんは?!」


「いるから一旦落ち着こうか…?」


「どこ……あ、後ろ?! なんで隠れてるのー?!」


「あ、えぇっと……」


 ドアが開いた瞬間にゆたゆきを放り投げるように手を離し、帰ってきた優斗に駆け寄るひな。優斗は、中に入りたいのに道を塞がれてしまいったため、興奮しているひなを落ち着かせようとするが、ほとんど意味はなく。

 突然知らない勢いのいい妖怪がいたことに、隠れているわけではないが、身長的に優斗によって隠れているように見える琴乃は戸惑っていて。


「ひなが少し避けてくれれば糸印さん前出せるんだけど……」


「あっ、そっか! ごめーん」


 優斗に言われてやっと自分が壁になってることに気付いたひなは、うっかりうっかりと言いながら少し横によけた。そのあとにようやく優斗と琴乃は事務所内に入ることができて、冬の寒い空気からも解放された。

 そしてひなは、琴乃をまじまじと見つめ、そのまま数秒の沈黙のあと……


「かっわいーいーーっ!!」


「っわぁ?!」


「きーちゃんから聞いてたけどほんとに可愛いねいっちゃん! 私ほんと会うの楽しみにしてたんだーっ!」


「あ、ありがとうございます……?」


 タックルに近い勢いで琴乃に抱きついてから琴乃の手を握り、さっき以上に楽しそうにぴょんぴょんと跳びはねる。

 その高いテンションに押され、琴乃は戸惑いながら跳ねているひなを見る。ここまで喜ぶなんてことは、はなよいと会った後だったこともあり、思いもよらなかった。


「私人間ってゆうと以外にほとんど見たことないから新鮮でさー! よろしくね、いっちゃん!」


「こ、こちらこそよろしくお願いします……!」


「……ねぇよーちゃん?」


「黙っててやれ」


「えぇ……うんー……」


 がっしりと琴乃の手を掴んだひなを見て少し気になるところがあったゆたゆきは、はなよいにそのことを聞こうとしたがいつも通りすぐに跳ね返されてしまったので、言われたように黙ってひなと琴乃を見ることにした。


「話しているところ悪いけど、僕からちゃんと紹介させてもらってもいいかな、ひな?」


「もっちろん!」


「ありがとう。糸印いとがねさん、この子はひな。治療とか、依頼人の対応とか、基本的に裏の仕事をしてもらっている。」


「困ったこととかあったらどんっどん聞いてね~っ!」


「はい、ひなさん!」


 ふわふわしたかわいらしいボブの髪が似合う笑顔のひなに、琴乃も笑顔で返した。

 そんな琴乃を見て、これ以上放っとくと言うタイミングがなくなると思ったはなよいとゆたゆき。お互いが同じ思考であることをアイコンタクトで確認してから、ゆたゆきが何気なく話に入っていく。


「いやぁ~よかったねぇいっちゃんと会えて。ずっと楽しみにしてたもんね、ひーくん?」


「うん! ……っエ”」


「どうかし…………あれ? …え……ひー……


“くん”…?!」


 ゆたゆきによるさりげないがとてつもなく深い攻撃により、目を丸くした琴乃がそう言った直後、ひなの叫びが事務所内に響いたとか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます