そこは、日常。

「それで?! どうだったの、探偵の人?!」


「藍莉の言ってた通り、かっこよかった。」


「どんなイケメンー? 爽やか? クール?」


「んー、爽やか……?」


「爽やかかぁーっ!!」


 まさかの月霧先輩でした~、なんて言えるわけない。学校の昼休み、このときを待ってたかと言うような勢いで私の席へ走ってきた友人の三雲みくも 藍莉あいりと、その後ろを小走りでついてきた同じく友人のにのまえ 苑羽そのは

 先日とある探偵事務所へ事務員の応募をするために行ったので、そこの探偵の人が格好いいという話があるので、それについて聞きにきたようだった。


「はぁーっ!いいなぁそんなイケメンずっと拝めるとか…」


「まだ採用されたわけじゃないからわかんないよ…?」


「だーいじょうぶだって! 琴乃なら心配要らない要らない!」


「そーそー」


「うんー…」


 まだ私が採用か不採用か決まっていない理由をしらない二人からすれば、私が結果報告待ちになっていると思って当たり前だ。

 向こうは歓迎してくてるんだから、私がイエスと言えばきっと採用してくれると思う。

 けど、正直まだ迷っている。だって、“妖怪”がいるなんて言われたら誰だって迷うだろう。私みたいなそれらが見えない人間ならなおさらに。


「ね、もし入れたら探偵の人の写真とか…」


「藍ちゃんそれはダメー」


「えー……だってぇ…」


「どのみち、あんまり顔見せたくない人らしいから無理かなぁ……」


「そんなぁーっ!」


「藍莉の家バイトダメだっけ?」


「そうなんだよねぇ…あんのケチババめー……」


 お母さんへの愚痴を溢しながら私の前の席にどかっと私と向かい合わせになるように座った藍莉。

 どのみち藍莉が入ろうと事務所に行っても事務員には慣れないだろう。なんにせよ私があそこへ応募に行ったきっかけとなる張り紙は、本来妖怪、またはそれが見える人だけに見ることのできるもので、それ以外の一般人はただの宣伝チラシにしか見えていないのだから。

 妖怪の見えない藍莉では、先輩もきっと採用しかねるんじゃないだろうか。


「それじゃあ、私と藍ちゃんは依頼で行こっかなぁ~?」


「だねぇ…」


「なら依頼する何かがあるといいけど…ある?」


「そうなんだよなぁーっ! なーんにもないもん今ー!」


「友人の琴乃ちゃんの様子を見に来ました~、とか?」


「それで会えると思う?」


「どーだろ…でも探偵さんに会えなくても琴ちゃんには会えるね?」


「琴乃とはいっつも会ってるからぁ~!!」


 ふわぁ、と周りに花が出てきそうな笑みを浮かべながら話していく苑羽へ、藍莉が軽く突っ込みながら返答するといういつもの会話を続けているところを、私はただ見ているだけだ。

 藍莉と苑羽は小学校からの仲で、私は高校で一人でいるところを話しかけてもらってからこの二人と仲良くしている。そのせいか、まだ少し二人の会話に入るのには少し抵抗というか遠慮というか、そういうものがあったりする。


「琴ちゃんがお願いしたら会えたりしない~?」


「うーん……私そんなことできる立場じゃないからなぁ……。ごめんね。」


「そっかぁ……じゃあ私たちで頑張ろーっ」


「うぅ……道遠い……」


「が、がんばれー……」


 うきうきと楽しそうに右手をグーにして上に挙げる苑羽に対して、藍莉は“無理だぁー”とでも言いたそうにぐてっと私の机に伏せていた。

 そういえば、あの事務所は先輩以外は妖怪だと言っていたけれど人の依頼も受けているのだろうか? 昨日聞いておけばよかったかな。いや、確か苑羽と藍莉にはこの前見た張り紙が事務員募集ではなくただの事務所宣伝チラシのようなものに見えたらしいし、人も受け付けているのか。


「あ、聞いて聞いてー。昨日の部活で西野先輩が……」


「あーあー! もう惚気話はいいからー!」


「えぇ、付き合ってないよー…?」


「でも結構いい感じじゃんあんたらっ!」


「そう~?」


 今の話題ではそろそろネタがつきそうなのを察して、苑羽が幸せそうにリア充オーラ(藍莉命名)を振り撒いて話し始めたのは、苑羽が恋心抱いている部活の先輩の話。私も藍莉もその先輩、西野先輩のことはふんわりと知っていて、苑羽のその手の話し相手によくなっている。


「そうだよ! ねぇ琴乃!」


「うん。端から見たら彼氏彼女って間違われてもおかしくないと思う。」


「え~…そお…?」


「うわぁー! この恋する乙めーっ!」


「わぁ?! 藍ちゃん擽ったーい!」


 付き合っていると言われても納得できるほどの仲の良さを持つ苑羽と西野先輩だけれど、まだそこまで行ってない上に、本人はあまり自信がない様子で。

 苑羽曰く紳士的イケメンらしいが、藍莉はあれはダメだ、と先輩のことを知った頃は言っていた。とは言え、なんなかんやで西野先輩にデレデレな苑羽を今みたいに羨ましがったり、いい雰囲気なのに何故かくっついていない二人を応援したりとなんやかんやで友達思いだ。

 因みに、こっそり何故西野先輩が嫌なのか聞いたところ、真顔で“なんか生理的に無理”と返された。


「それでー? 今日は部活あんの?」


「あるの~」


「そりゃよかったねぇ」


「うん~っ」


「んっとにかわいいなぁあんたはー!」


「わぁーっ、苑ちゃん暖かーいっ」


 ふわふわとしたオーラを持つ苑羽は小動物的な印象があって、その影響でか苑羽に抱きついた藍莉。そんなじゃれあいのようなことをしている二人を見ているうちに、授業開始五分前の予鈴が鳴った。

 もう事務所に訪れてから早くも一日が経とうとしてる。こんな調子だったらダラダラと決断するのを後回しにしてしまいそうだ。できるだけ早く、決めないと。

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