それは、一歩。

「そんなことない、だぁ?! ふざけるのも大概にしろこの気楽女!! お前と二人で行動したときどれだけ私が苦労していると……っ」


「あは~…なんのことかわかんないなぁ……」


「貴様……っ!!」


「あはーこわいこわーいっ……というかここで刀使うのやめなーい? ぬ、主くんに当たっちゃったらあれだし……ねぇ?」


「いや、僕は大丈夫だから気にしないで。」


「ちょ、主くん?! …おわっ?!」


 空気を切る音を鳴らして刀を振りながら怒りをぶつけるはなよいだが、それは全てひらひらと避けられてしまいさらにストレスが重なってきてしまっている。

 避けている側のゆたゆきは半分本気で来ているはなよいに、少しまずいとは思っているのでどうにか止めようと交渉するが、何故か優斗にすぐに駄目にされてしまったため流石に焦りが顔に浮かんだ。


「まぁ、はなよいいつも苦労してるし……時々は不満聞いてあげたらいいんじゃないかな?」


「いや聞けるような状態じゃな……まってよーちゃん僕死にかけるよ?!」


「よーちゃんって呼ぶなと何度いえばわかるこの馬鹿が!!」


「ごめんってよーちゃん!!」


「お前は鳥か?!」


「ちが……いや強ち間違ってないー!」


「この……っ!!」


 暫くの間リアル鬼ごっこのようなものを続けていたが、ゆたゆきの言ったことのせいで怒りが増えたはなよいも、自分で自分の頸を絞めたゆたゆきもだんだんと体力が削られて動きが鈍くなりはじめる。

 頃合いかと思い二人を微笑ましく遊んでいる子供たちかのような眼差しで見ていた優斗が二人(特にはなよい)を止めに入ったことで、リアル鬼ごっこは引き分けで終了した。


「もぉー、よーちゃん怖い~…」


「お前がふざけたことを言うからだ」


「えぇー……」


「ゆたゆきはふざける加減を考えないとね……」


「主くんまでー…?」


 近くにあったソファに寝転がりポツリと呟くゆたゆきだが、直後に二人から追い討ち攻撃を受けてぐてーっと更に体の力が抜けた。

 優斗はやれやれと言うように苦笑し、はなよいは呆れたようにため息をついた。

 そして大切なことを思いだしたので、ゆたゆきの目の前へ行きにっこりと爽やかな笑みを浮かべながらしゃがみこんだ優斗と、しゃがまれたお陰でばっちり目があったことで嫌な予感がしてたので反射的に目を反らすゆたゆき。


「ゆたゆき、お願いがあるんだけどいい?」


「やだ」


「さっきの話なんだけど、はなよいに言うのもお願いできる?」


「ねえ僕の意見は……?」


「ゆたゆきにしかお願いできないんだ。ダメかな……?」


「……いまー……?」


 見事に予感は的中して、できるだけ目線をを合わせないように目をそらしながら会話をしたのちに、顔ごとソファに埋もれていった。

 拒否権が自分にないことを察しながら、とてつもなく嫌そうな顔をしながら優斗に文句をぶつけた。


「今がタイミング的にいいと思うんだ。」


「主くんが言うのじゃ……」


「僕が言ったらはなよいなんでも了解しちゃうからさ…?」


「だよねぇ…」


 いくらゆたゆきであろうと殺されそうになった相手と、その直後に再び、しかも理不尽な理由ではあるが殺されかける気がすることを話すのは抵抗がある。

 優斗とゆたゆきどちらも何故かコソコソと小声で話しているので、一人仲間はずれにされてなにを話しているのかと気になったはなよいがどうしたのかと二人へ声をかけようとしたところ、丁度話が終わったようで。すると優斗は少し申し訳なさそうにしながら部屋から出ていき、ゆたゆきは逆ギレ気味で何故か笑顔になりながら立ち上がった。


「よーちゃん!!」


「な、なん…っ?!」


「今から僕凄いよーちゃんが怒りそうなこと話すけど僕のせいじゃないから僕に対して怒んないでね! 絶対に! ね?!」


「わかった。わかったら肩離せ……」


「あぁ、ごめんごめん。…ねぇ僕死にたくないんだけど……」


「…大丈夫か……?」


 突然立ち上がったかと思えば一気にはなよいよ方へ歩いていき、そのままガッシリとはなよいの肩を掴みながら物凄い剣幕で話始めたかと思えば一気に気分が落ちたので流石に心配になったが、そのあと話された内容でなんとなくゆたゆきがそうなった理由がわかった。


「……確かに最初にあぁ言われなければ危うかっったかもしれん」


「だよね?! でもそれ結構理不尽だと思うんだけど……?!」


「あぁ。でもそうならなかったからいいだろう。」


「いや、まあ……うん。でも可能性はあったじゃん……?」


「ちょっとのことじゃあお前は死なないから安心しろ」


「なにそれ僕ゴキブリみたいじゃない……?」


「……そんなことないさ」


「よーちゃん…?」


 話の内容は事務員になりたいとここにきた糸印琴乃のこと。事前に注意しておいたから落ち着いて聞けたはなよいだが、もしそれなしの状態で聞いていれば刀が出ずともゆたゆきは半殺しに遭っていただろう。

 それほど、この事務所にいる妖怪たちにとって人間は関わりたくないものなのだ。

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