とある妖探偵の戦奇譚

冬実 ひいら

そこは、不思議な書庫。

 とある事務所にある書庫。そこは少し特殊な本があり、その管理人の住みかでもある場所。そこに呼ばれた書庫のある探偵事務所を営んでいる青年探偵は、目の前にいる管理人の少年に、深く溜め息をついた。


「…起きろ」


「あぁ……?」


「そっちから呼んだんだろ。」


「……あー、わりぃ。あまりにも遅いもんでな」


「こっちは学校あるんだよ。前も言ったろ」


 いびきをかきながらソファで寝ているところへ声をかければ、少年はうっすらと目を開いた。青年探偵がしっかり視界にとらえられたらむくりと起き上がり、第一声で不満を漏らした。青年としては呼ばれたのに当の相手が寝ている方が不満度は高いような気もするが、それは言わずにおいて。

 青年が呆れた表情をしながら遅れた理由を話しても、少年は一つ欠伸をしたあとにふうん…とどうでもいいと言いたげな表情をしていた。


「そういやそうだっけか。にしても人間は面倒だなあ……人生一生縛られて生きてくんだからよ」


「そんなことより用件は」


「んな急かすなよ。こっちは直接の会話自体久々なんだ。少しくらい付き合ってくれてもいいんじゃねーの?」


「こっちは暇じゃないんだよ。」


「今はそんな急ぎの依頼ないだろ?」


「プライバシーもクソもない……」


「っはは、俺にそんなもん要求しても無駄だぜ。」


「今までで死ぬほど思い知らされてる。」


 依頼を理由にして少年と話す時間を減らそうとするも失敗し、へらへらとした少年の笑みに舌打ちをしながら少年の向かいのソファに座る。それが意外なことなのか、少年は驚いた顔をしたあとに、満足したようににやりと笑みを浮かべた。


「あれ、諦めてくれんの?」


「できるだけ早く終わらせろ」


「冷てーなぁ……わかったよ。取り敢えず呼んだ理由から話す。」


「珍しい」


「だろ?今日はお互い珍しいな。」


 よく考えたら話すようなことがなかった、なんて言えば冷ややかな視線を送られるだろうから言わないでおいて。小馬鹿にしように鼻で笑いながら言った言葉は素直に受け取られ、空回りした上に返答に困ることも言わてしまい。そこから浮かんできた感情を深く息を吐いて抑えながら早く話せ、と目で訴える。


「当ててみろよ。俺の言いたいこと」


「面倒な……」


「まあまあ。どうせ予想はついてんだろ?」


「……さっきの電話についてだろ。」


「やっぱ分かってんじゃねえの」


「で?」


「わかったわかった。お前はどうするつもりなんだ? 入れるか、断るか。」


「…実際に会わないとなんとも言えない。」


「嘘言うなよ。」


 さっきまでのへらへらとした笑みは消えないまま、けれど決してふざけているわけではないその声に、青年も返答の仕方を変えた。少年の話したいこととは、この書庫に来る前に事務所へ掛かってきた電話の事だった。電話の内容は事務員として働きたい、というもので、後日事務所に来て話すということでその電話は終わっている。少人数で動いているこの事務所では、誰か1人事務員が増えるとなるとそれだけで一大イベントとなるのだ。

 しかし、少年は今回の電話のことも、勿論その内容についても、聞いていないし知らされてすらいない。にも関わらず知っているのは、この書庫にある本のお陰だ。それは青年、というよりこの世界に住んでいる者にとって不快でしかないことなのだけけれど。


「嘘じゃない。誰が来たって一番は今いるみんなだ。」


「俺に嘘が通用しないのはわかってるだろ」


「……半分は本当だ。」


「へえ……」


「別に信じなくてもいい。そう書いてあったんだろ。」


「まぁな。」


「それで?入れるかどうかを確認したかったわけじゃなあないだろうな。」


「まさか。……でも、やっぱやめたわ。」


「は?」


「なんか無駄な気がしてきた。」


「本当にただ時間潰されただけか……」


「まあまあ、時々は休みも大事だろ?」


「これのどこが休みだ。」


「ひっで」


 呼ばれた理由を言わず、結局ただ暇潰しで話し相手にされたような状況に、青年は思わず溜め息を吐いた。相変わらずヘラヘラと笑っている少年へそこそこのイラつきを覚えても仕方がないのではないだろうか。

 用件が無くなったため今ここにいる必要もなくなったわけで。少年が多少は満足したことを確認すればすぐに書庫から去っていった青年に少年は苦笑し、座っていたソファから立ち上がればふわりと浮く。そして一冊の本を手に取り、開き、にやりと笑う。


「糸印琴乃、なぁ……まーた面白いやつが来たもんだわ。」


 その本には、少年が名前を口に出したとある少女について書いていった。そして軽く目を通したあと、少年 付喪神“おく”は、ふわりとまた別の場所へ行って本を読み、戻し、移動し、本を読む、を暫く続けていた。

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