盆休み
8月も半ばの盆休み一つの霊園で一人の男が墓に手を合わせていた真路である。
「心さん、今年も来ましたよ、勿論真心さんも一緒です」
最愛の妻の名を呼ぶ真路の目の下は隈が出来ていた、昨日までかなりの激務に追われていたであろう事が伺える。しかし彼はどんなに刑事の仕事が忙しくとも、毎年真心を連れこうして墓に手を合わせるのを忘れずにいる、愛妻家であった。
「最近ね、真心さんが面白い事を始めたんだ、きっと心さんが聞いたら一緒になってはしゃいでただろうね」
真心の母は伝説や御伽噺、とりわけ妖精の出る話を好んでいた。
真路はそれを思い出して、微笑み手を合わせるのをやめて霊園を後にする。
さて、連れて来たとあるが、肝心の真心はどこにいるのかと言うと?
「真心ちゃんも高校生かい、大きく……なってないねぇ」
「これからですもん、これから大きくなるんです~!」
「いやぁ、お爺ちゃんは小さいままでもよいよ、娘は大きかったからのぉ」
「お爺ちゃん、ひど~い」
寺の日陰の場所でこの寺の住職であろう老人と親し気に話していた。
というのも、このお寺は真心の母親の実家でもあるのである。
勿論、既に真心は自身の母親に手を合わせ終えている、ただ真路よりも少し早く戻って来ていただけだ。
「お爺ちゃん、お母さんのアルバムや日記、見せて貰える?」
「ああ、構わないよ、おいで」
「ありがとう」
夏休みのお盆になると真心は毎年この寺に来る、そして実家と言う事もありこの寺には真心の母親の思い出がたくさん眠っている、小学生の頃こそ心の傷を開く代物であるがため引き離していた、そしてそれは中学に上がってからもだ。
しかし、高校生となった真心はそれを紐解くことを決意した、決意した理由、それは自分の母親が妖精や御伽噺に精通していたと言う話を父に聞いたから。
これからのダンジョンのマモノを作るのに何か役立つ資料があるかを調べる為だ。
「このダンボールの中が、真心ちゃんの母親、心のアルバムと日記だ、真路君のとこへ嫁に行ってからも書き続けていたものまで全部、あの事件現場から出たものもだ」
「事件現場、あの時のだよね……」
それは少々古ぼけたダンボール箱であった、それが真心の母親の心が残した全てだ
そしてその中の一番上には土汚れと血が幾分かついてしまった、一際汚れたノートがあったのだ。
「これがお母さんの……沢山あるね」
「心は日記を書くのが趣味みたいなものだったからねぇ、持っていくかい?」
「いいの、お爺ちゃん?」
「全部読むには一日、二日じゃ足りないだろう、家に帰ってゆっくり読みなさい」
「ありがとね、お爺ちゃん」
「お~い、真心さ~ん、そろそろ帰るよ、お義父さん、今年も御世話になりました」
「何、気にしないでおくれよ、また来年も真心ちゃんと一緒に来ておくれよ」
「はい、ありがとうございます」
こうして、真心と真路は母親の実家を後にしたのであった。
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