真心の過去

「ここ、どこ? シスタ、皆、いないの?」


 真心は暗闇の中、右に左と首を振り、シスタ達を探すも暗闇が続くだけで誰の返事も帰ってこない。


「ウィスプともはぐれちゃった、どうしよう、真っ暗だ、い、嫌だ、暗いのは嫌だ」


 ウィスプとも引き離され、身体が震え立っていられずダンジョンの床に座り込んでしまう。


「どうして、だ、誰かいないの……あ、ママ! あれ、どうして、行かないで、ママ!」


 真心が震えていれば真心の目に真心をもう少し大人にしたくらいの女性が真心の前に現れる、しかしその姿は何も言わず真心から離れていく、真心は必死に縋りつこうとするも出来ない、何せそれは真心の恐怖心が生み出す幻覚だからだ。


「ママがいっちゃう、ねぇ誰か、助けて、ママがいっちゃう」


 とうとう、小さくうずくまり、泣き出してしまう。真心が暗闇を怖がる理由。

それは今、真心が見てる幻覚である母親に密接する。

 それはある夏の日まだ真心が小さい時の事。その日真心とその母親は山道を車で走っていた、田舎への帰省と言う奴だ、しかしそれが不幸の始まりだ、二人を襲う落石事故。車の中中で落石を受けてしまう母、大丈夫と言い聞かせながら冷たくなる母。

救助が来たのはそこから数時間した後の夜、無垢な少女にとって、その間の暗闇は何が起きるか起きてるか何もわからない恐怖そのものであった。

それ以来である真心が異常に暗闇を嫌い始めたのは。


「嫌だ、一人は嫌だよ、誰か助けて、パパ、ママぁ、ひっぐ、ぅぅ、ひぅ」


 暗闇の中に数分いるだけで、真心は子供の頃のトラウマが呼び起こされ、泣き出してしまう、次第にその恐怖は膨らんでいき、大声で泣きだし、粗相をし床も濡らし始める、さて、その姿を見ていた龍二と言えば。


「ぶわははは!!! こいつガキでもねーのに、漏らしてやがる、うっわ、はっず、マジ恥ずかしい、ひー、腹いてぇ、笑い過ぎて腹がいてぇ」

 

 爆笑していた、龍二はこういう男であった、人が絶望し悲しみ、情けない姿を見る事が喜びであり、それを見て悦に浸れる、性根がねじ曲がった少年であった。

その隣で補佐役もまた邪悪に口を歪め笑っていた、普段無感情であるがこうして他のトレーナーが無様を見せる時だけは彼は笑顔となる嗜虐的な性格をしていた。

 口を抑え同情の目を向けるものは玉座の間には一人のみドラゴンだけであった。


「なぁ主殿、これくらいにしてはどうじゃろう、少女はもう戦意喪失しておる、今妾にあそこへ行き降参するよう脅せばすぐにでも応じるじゃろう」

「あぁ? こんな面白い奴に会ったの久々だからもう少しビビらせて遊ぶわ、どうせあんなおもらし女の仲間、大した事ねーだろ?」

「…………相分かった」


 ドラゴンはそれだけ言うと、モニターから目を逸らす、心底、この主の下に生まれた事を嘆くしか今の彼女にはできなかった。しかし、彼らが真心の姿をあざ笑う時間はこの後すぐに終わった。


「さーて、そんなお仲間の姿でも見てみますかね……って!?」


 ひとしきり、真心の姿を見て笑い転げるのを終えて、今頃ボロボロになっているであろう真心のマモノの姿を見てみようとモニターを変えてみればそこには龍二の予期していない物が映っていた。


 モニターには龍二のマモノ達が死体となっておりダンジョンの壁を荷車に乗り爆弾で壊しながら突撃する真心のマモノ達の姿が映っていたのだった。

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