エピローグ&NEXTプロローグ

 結局……サボってしまった。

 今日は文化祭の後片付けだけだったとは言え、文化祭実行委員のこの俺が。

 こりゃ佐久間達を始め、様々な生徒から文句を言われる事だろう。


 でもさ……


 起きれるワケねぇだろぅがぁあああああ!?

 普通寝ちゃうって! つい数時間前まで命のやり取りしてたワケだからね。

 そりゃ精魂尽き果てて寝ちまうって。


 むしろこうして夕方に目を覚ました事を褒めて欲しいくらいだよッ!


 まぁもう何も言わないよ、俺はね。

 サボったのも事実。黙って文句を言われようと思う。


 そんなこんなで俺は今回の件でやり残した事を消化すべく、居間に降りる事にした。

 何だかんだで体が楽になってる気がする。

 傷も面白いくらいに回復してやがるし。こりゃまた俺が寝てる間にれいんにチューでもされたか? 参ったね、どうも。


 何て事を考えながら居間を突き抜け縁側へ。


 そう。今回の件で殉職した、我がスマートフォンの墓を作ろうと思っているのだ。


 手に握ったボロボロのソレを見て、再び悲しい気持ちになってきた。

 そんな俺の耳に、

「あ、忍さん。目覚めたんですね♪」


 丁度庭で洗濯物を取り込んでるユマッペと鉢合わせた。

「おお、ユマッペか」

 俺の顔を見るとユマッペは安堵の表情を浮かべ、

「薫から体調を崩したって聞きました……大丈夫ですか?」

 決して洗濯物を取り込む手は休める事なく言ってくる。

 そうか、薫も気使ってくれたんだな。


「ああ、大丈夫だよ。薫とれいんは?」

 俺も言いながら、サンダルを履き庭に出る。


「薫は葉月さんと検診のタメ病院に行ってます。れいんさんは普通に学校じゃないですかね? 二人とも直に帰ってくると思いますよ」


 え、マジで? れいんの野郎何一人だけヌケヌケと学校行ってんの? 俺を起こせよ、マジで。


「忍さん、それは?」

 と、目ざとくもユマッペは俺の手の内で息絶えているスマホに気が付いた。

「ああ……ちょっと壊しちまってさ。コイツの墓でもと」

 スマホの惨状を見て、ユマッペは何があったらこんな壊れ方をするんだと言いたそうな顔をしてる。


「これ……ちょっと所じゃないですよね? これだとデータとかも壊れちゃってるでしょうし……」

「うん、まぁ……」

 だから新しいのを買ったら葉月さんに電話帳やらのメモリーを復活させてもらおうと思うのだよ。


「バックアップとか……SDカードとかは入れてないんですか?」

「……!?」

 何気ないユマッペの言葉に、俺は大きく反応する。


「いえ、私はSDカードにバックアップを取るようにしてるので……って言ってもこれじゃSDカード入ってたとしても……」

 ユマッペには悪いが、ユマッペの言葉には耳も貸さず、俺は猛烈な勢いでSDカードのスロットをこじ開ける。


 入れていたのだ。


 確かに俺もスマホにSDカードを! 本体のストレージの容量だけじゃ心許なかったから、外部ストレージ用にと入れていたはずだ!


 カチカチと、気が逸り震える指先で上手い事SDカードを取り出す。



「はッ!」

 俺の手の平に神々しいまでの輝きを放ちながら、そいつは舞い降りた。

「あ、SDカードは無事だったみたいですね♪ ちゃんと読み込めるか私のスマホ使って確認してみますか?」

 と、俺の様を見てニコニコ笑いながらユマッペが言う。


「是非、お願いしたい!」

 言って、俺もソレをユマッペに手渡す。

 確か俺は以前SDカードにアドレス帳のバックアップを取った気がする。

 それがいつかは思い出せないが、そんな昔じゃないハズだ。


「ちょっと待ってくださいねぇ」

 ユマッペが自分のSDカードを取り出し、俺のSDカードを挿入する。


 そして数秒後、


「あ、無事みたいですよ♪」

 声高らかに言い、俺に携帯画面を見せ付けた。


「ま……マジだ!」

 バックアップを取った日付は……今年の9月か?


 と言うことは……


 アドレス帳に関しては無事だったって事じゃないか!? 俺の記憶ではここ数ヵ月誰ともアドレスの交換はしていない。


「う、うぉおおおお!」


 これで葉月さんに別の願い事を叶えてもらえる!

 確かに俺にしてみればこれは重要な問題ではあったが、実際こんな事に願い事を使ってしまうのは無駄遣いと思っていたのも事実。

 これじゃ、皆で苦労してドラ○ンボールを集めたのに、ヤムチャを蘇らせるくらいの無駄遣いになる所だったのだ。

 どうせまたヤムチャ死ぬし。だったらまだギャルのパンティをくれ的な願い事の方が有意義じゃないか。


 まぁ俺はもっと有意義な願い事にするけどな!

 何はともあれ、ヒャッハーだ!


「良かったですね、忍さん♪」

 狂喜乱舞する俺を見て、笑顔を浮かべるユマッペ。


「ああ、ありがとなユマッペ! ユマッペがSDカードの事を言ってくれなきゃ俺はマジでその存在を思い出す事はなかった! 命の恩人だぜッ!」

 最早俺のテンションは最高潮だ。


「そんな、大袈裟ですよぉ」

「いやいや、マジありがとなぁッ」

 言って、思わず俺はユマッペに抱き付いた。

 決して性的な意味ではなく。


「え、あ……忍さん……」

 ユマッペは俺に抱き付かれ顔を真っ赤にし、どうして良いのか判らず身を硬直させている。


 そんな俺の背中から、

「何してやがる……お兄ちゃん」

 殺気立った声がした。


 俺は一気に現実に引き戻され、ユマッペから離れワナワナと震えながら後ろへ振り返る。

「か……薫。お帰り」


 薫の隣には制服姿のれいんも立っていた。



「あ、れいんも……お帰り」

 とりあえず、その場凌ぎの笑顔を浮かべる。


「何してんだって聞いてんだ」

 薫は明らかにいつもとキャラの違う面持ちで俺を見ている。

「い、いや。その……なぁ、れいん?」

 誰か助けてくれ。お前なら俺を助けてくれんじゃないか、戦友!?


「知らない」

 れいんはそっぽを向き、居間の奥へと消えていく。


「違うんです!」

 と、そこへすかさずユマッペ。

 すっかり顔を真っ赤にしてたから役に立たないだろうと思ってたが、こりゃ思わぬ所から助け船がやって来た! 助かったぜ!


「その……力強くて……私……男の人に抱き締められたの初めてで……抱き返す事も出来なかったけど……でも、嫌じゃなくて――――」


 あれ? 俺が乗った助け船乗り込んだ途端に沈没してね?

 タイタニック号みたいになってんだけど。


「とりあえず上がろうか、お兄ちゃん」

 ユマッペのおかげで鬼の形相に拍車がかかった薫。

「…………はい」



 俺は薫に連れられ、ちゃぶ台の前に座らされた。

 それから尋問じみた説教が始まる。


 れいんはそそくさと自分の部屋に戻りやがったようだ。

 ユマッペは未だに縁側で顔を赤くしてやがる。


 まぁ……帰って来たんだな。

 今実感するのも可笑しな話だが、俺はまたこの場所に帰って来られた。今はそれだけで良い。


 薫の説教だっていつまでだって聞いてやる。


 そして全部が終わったら、改めて言おう。


「ただいま」と。



 ◇


 夕陽が差し込む修道院。

 コツコツと響く足音。夕陽に照らされ、院内に伸びる影。

 修道院の奥にある祭壇へと歩く一人の少女の顔を、夕陽が茜色に染め上げていた。


「来たねぇ」

 と、祭壇の前に少女が立つと、陰で座っていた牧師の格好をした老爺ろうやが声を上げた。

 少女は答えず、真っ直ぐで力強い瞳で前だけを見ている。


「君が自ら名乗りをあげるとは……こちらとしては少々驚かされた。君は絶対に名乗り出ないだろうと思っていたからねぇ。

 裏切り者と言えど、あの子は君にとって妹みたいな子だろう? ここで契約してしまえば、もう引き返せなくなるが……やめるなら今の内だよ」

「いえ。いいんです」

 牧師の言葉に、少女は一切目を曇らせる事なく頷く。


「確かに奇術を主とする君なら、剣術を使うあの子とは有利に戦う事が出来るだろうが……それでも、やはりあの子は強い。最悪2、3人護衛もつけるが」

「必要ありません。のあの子の相手をするのに、相手を“殺す”事しか出来ない人なんて役に立ちませんから」

「いやはや、そうかもしれんが……」

 少女の言葉に、牧師は困惑した様な素振りを見せた。


「死なないなら、その存在そのものを消す。それだけです」

 少女の目には迷いがない。

 そんな顔を見せられては、牧師も何も言えなかった。


「わかった……それでは、奥の部屋に来なさい。契約のサインと、刺客としてどう動くかを私が説明しよう」

 言って、牧師は一足先に奥の部屋へと入って行く。


 少女は直ぐにその後を着いて行く事をせず、一度祭壇に祀られた聖母マリアの石像の前で立ち止まった。



「えぇ、私ならきっと大丈夫。Quinque、ナギ。必ず裏切り者、六条れいんと、私からあの子を奪った元凶を“消去デリート”します」

 凛とした表情で呟いた少女は、小さく微笑んだ。


【第二章・死亡遊戯:了】

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