11月4日(月) ~デス・マッチ~

「シノブ」

「何だよ」

 悪いが、六条の方を向いてる余裕はない。

 純志麻から目を離したりしたら、いつ攻撃して来るか判らなくなる。今はヤツの動きに全神経を集中したいのだ。


「ここじゃ暗すぎる。ひとまず月明かりの届く場所まで移動するわよ」

 ごもっともだ。

 こんなか細い炎の明かりじゃ純志麻の動きも良く判らない。

 明るい所に行ったら純志麻も有利にしてしまうかもしれないが、俺達も下手に身動きが取れない今、そうするしかないだろう。



 六条はそれと、と言葉を付け足した。

「とにかくガンガン突っ込んで行きなさい。援護はするわ。良いわね?」

 良くない。俺を鉄砲玉に使おうったって、そうはいくか。


 何を言うかと思えば、馬鹿かコイツは。

 俺はまだ純志麻がどんな攻撃をして来るのかさえも判らない。

 ノコノコ飛び込んで無駄死になんかしてなるものか。


「いやいや、お前が先行けよ。一回ヤツと戦ってんだし、俺よりかは戦えるハズだ。援護なら俺がする。思う存分に暴れろ」

「わかった」

 と、六条が頷いた。馬鹿で助かるぜ。

 そうと決まれば、すぐに移動だな。



 が、

「無駄口たぁ余裕だなぁ、おい!?」

 突如、いざ行動に移さんとする俺達の目の前に、純志麻が現れた。


「なっ――――」

 速すぎる。さっきまであそこに居たのに、殆ど瞬間移動じゃねぇか。


 気付いた時には、俺に純志麻の右手が向けられる。

 先に俺を潰す気か!?

「シノブ!」

 純志麻の動きは目で追うのでやっとだ。


 そんな俺に、純志麻並みの、いや、純志麻以上の速さで六条が体当たりをかます。


「ぐへぇ!」

 吹き飛ぶ俺。まさか味方に攻撃されるとは。

 地面に何バウンドかして、横たわる。

 その背中で―――――


 ドゴォオオオオ!

 何かがぶち壊れる音を聞いた。


 イヤな予感がし、すぐさま起き上がる。

「…………」

 一面の砂煙。

 砂煙のせいで、六条と純志麻の姿が見えない。


 やがて砂煙が治まると、俺にも現状が把握出来るようになった。


 右手を翳したまま立つ純志麻。その前には空いた大きな穴。

 コンクリの壁が壊れたのだ。さっきの砂煙は、その時に引き起こされたモノだろう。

 しかし、俺の視界には六条の姿がない。

 パラパラと、壊れた壁からコンクリの塊が床に落ちていく。


「ろ……六条ぉおおお!!」


「もうデス・マッチは始まってる。これは遊びじゃない。一瞬の気の緩みが命取りだ。油断すんなよ」

 純志麻が俺の方へと振り向いた。


「それは、アンタもよッ!」

 声と同時に、純志麻の全身が炎に包まれる。

 建物内が、今までで一番明るくなった。


 こんな事が出来るのは……

「ろ、六条ぉぉぉ……!」


 空いたコンクリの穴から出て来る六条の姿を見て、思わず泣きそうになる俺。

 その全身はボロボロだが、確かに六条だ。生きていた。


「大丈夫、シノブ?」

 燃える純志麻の脇を通り、小走りで六条が俺の元へやって来る。

「まぁ、俺はおかげさまで……ってかお前こそ大丈夫なのかよ! コンクリの壁突き破ったんだぞ!?」

「余裕。とりあえず、今のうちに場所を移すわよ」

 と、六条が頷いた。

 コイツはタフ過ぎる。六条が庇ってくれたから良かったものの、俺が今の攻撃を食らってたかと思うとゾッとするぜ。



 こうして、純志麻の一瞬の隙をつき、真っ暗な建物内での大移動が始まった。

 俺の手を引き移動する六条は、あんな事の後だと言うのにどこかを痛めた様子もなく、いつものスピードで建物内を駆け抜ける。

 ふと振り返ってみると、火達磨にされた純志麻の姿がどんどん小さくなっていった。



「さっきの不意打ち、少しはダメージになってると良いな」

 いつ純志麻が現れても対応出来るよう、俺は身構える。


 とりあえず、月明かりの届く場所には移動できた。

 一本道の通路故ある程度見通しも良く、ここならさっきよりは戦える。

 とは言え、あんな瞬間移動みたいな事をされたら手も足を出ないが。

「あれでもダメとなると……どうしようもないわね」

 難しい顔をしたかと思うと、六条は鼻の頭を掻いた。

「えっ?」


「ひ、ひははははははははは!」

 建物内に木霊する甲高い笑い声。

 生きていやがった。あわよくば今のでやられてくれればとさえ思っていたのだが、やはりそんな甘くはないか。



 笑い声が俺の耳に届いてから間もなく、純志麻は俺達の前に姿を現した。


 これもまた、俺の波長を追って来たって感じか?

 俺から吸血鬼の波長さえ出ていなければ、どこかに隠れながら戦えるんだろうが。

 この分じゃ一旦隠れて小休止、なんてのも直ぐに居場所がバレるし無理そうだ。

 折角隠れられる場所や遮蔽物があるってのに、もったいない。


 純志麻を纏っていた炎は跡形もなく消え去っていた。

 やはりと言うか何と言うか、純志麻の体にはこれっぽっちも火傷の後が見られない。

 これもヤツの力のせいなのだろうか?


 月明かりに照らされる通路を、純志麻はゆっくりと歩いて来る。

 そして、両手を大きく広げながら、

「ああ、面白い。面白いよ! 楽しいなぁ楽しいよぅ最高だぁあああああ!」

 狂った様に叫び、笑い出す。


「妙ね……」

 と、首を捻ったのは六条だ。

「何がだ」

「肌は疎か、服も燃えてない」

 言われて気が付いた。


 確かに、純志麻の服には燃えた形跡が微塵もない。

 肌に火傷がないってのはまだしも、無機物である服が少しも燃えてないってのはどう言う事だ。

 アイツが身に付けた全てのモノに、噂の絶対防御みたいな力が反映されるのか?


「何より……」

 六条が眉根を寄せる。

 まだ何か不審な点があるってのか?



「面白いよ、あんた達。マジ大好きだ」

 なんて言う純志麻の告白。俺は大っ嫌いだ、コイツ。


 純志麻は無傷のまま余裕の表情を浮かべ、コツコツと小気味良い足音を立てながら歩いてくる


「面白いんだけどさ、いたちごっこは無しだぜ。俺は隠れんぼがしたいワケじゃない。

 コイツは命を賭けたデス・マッチ。いいや、互いの存在を証明する聖戦だ。真剣にやってくれなきゃ、つまらないって」


「……」

 六条は何も言わず、ジッと純志麻を見据えたまま、手の内に炎を発生させる。


「また炎か? 別に効かないから良いんだけどさ。熱さだけはどうにもならないんだ、これが。物凄い熱いんだぜ? 体が炎に包まれるってのも」

 と、六条の手の内のソレを見た純志麻が言った。


「あんた……」

 六条は純志麻の言葉なんか聞く耳も持たず、更に炎を大きくする。

 隣に居る俺にもその熱気が届く。


 まだまだ炎はデカくなる。

 おいおい、最大限までデカくする気か!?



 そして、遂に限界まで炎を大きくすると、

「うるさいのよッ!!」

 純志麻に向けソレを放った。



 さっきのとは比較にならない炎が、ハンパない勢いで純志麻へと向かって飛んで行く。


 不敵に微笑む純志麻は避ける事もせず、再び一瞬にして炎に包まれた。

「やったか!?」

 と思うのも束の間。純志麻の全身を包んでいた炎は、次の瞬間には綺麗に吹き飛んだ。


「うっそ!?」

「ひははは、だから効かないって」

 これまた無傷の純志麻。

 一体何がどうなってどうなれば体を包み込む炎が一瞬で消えるんだよ!


「シノブ」

「あ?」

「私がもう一度ヤツに攻撃する。それに続いて間髪入れず攻撃しなさい」

 六条が奥歯を噛み締めながら言う。


「いや、落ち着けよ。お前が冷静さを失ってどうする」

「いいから。私に続きなさい」

 六条の声にも苛立ちの色が見えていた。


 最早、策もクソもないのだろう。

 無理もない。六条の奇術が、まったくもってダメージになっていないのだ。

 こうなりゃいくら六条と言えど、もうがむしゃらである。


「はぁっ!」

 六条が純志麻に向かって飛び込んだ。

 俺も小さく舌打ちし、それに続いて床を蹴る。

 先陣をきった六条は、無防備な純志麻の懐に飛び込むと右手を裂けんばかりに開いた。


 そして、

 バチバチ、と今度は炎ではなく、手の内に電気を発し始めた。

 そんな事まで出来るのか。奇術ってのも何でもありだな!?


「はぁああああッ!」

 それを純志麻目掛けて、渾身の一撃と共に放つ。

 六条の電気を帯びたパンチは、とりあえずは純志麻の腹にヒットした。

 ヤツにダメージを与えられたかどうかの確認は後だ。

 思いっきり飛び出した俺の足にもうストップは聞かない。


「六条、どいてろ!」

 後続である俺の言葉を合図に、六条が純志麻から離れる。


 そのがら空きになった腹に、今度は俺が一瞬の隙も与えず強烈な一撃を――――


 入れるッ!!


「どうだよ、こんチキショー!」

「……ああ、シビレたぜ。最高だ」

「な――――」

 俺を見下しながら、純志麻が微笑んだ。


 またしてもダメージになってない。

 嘘だろ!? 普段の俺のパンチならまだしも、今のはちゃんと同化して放った俺の殺人パンチだぞ!?


 俺のパンチはしっかり純志麻に届いたハズなのに、まるで見えない壁にでも攻撃を遮られているかのような。

 打撃も斬撃も奇術も効かない。なんなんだよ、これは。A.T.フィールドか!?


「じゃあ、まずは使い魔。お前から消えると良いよ」

 言って、純志麻が俺に右手を翳す。


「っ……」

「シノブ! 避けてッ!」


 やべぇ、これはさっき六条が吹き飛ばされたヤツだ。

 逃げないとやられ――――


「げはぁッ!」

 俺の体に、今まで感じた事のない衝撃が伝わる。

 純志麻が何をしたワケでもない。

 手を翳された次の瞬間には俺の体が吹き飛ばされた。

 たったそれだけの事だ。一体自分の身に何が起きたのか、それすらも判らない。

 避ける暇さえ与えて貰えなかった。アイツはマジで何をした!?


「う……がはぁっ……!」

 吹き飛ばされた勢いで、俺の体はけたたましい音を立てながらコンクリの壁を一枚、二枚と突き破る。

 モノの一瞬にして、俺は今さっき居た場所から遙か遠くへと飛ばされた。


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