11月3日(日) 決戦前夜

「うぉりゃあああああ!」

 思いっきり地面を蹴っての跳躍。そのまま、その勢いを利用して吸血鬼に殴りかかる。


 俺の一撃をモロに顔面に食らった吸血鬼は地面に叩きつけられ、数秒後には砂となって消えた。

 次いで、ズシャア、とコケる事もなく着地する俺。

 今のは結構カッコ良かったのではないか?



「上出来ね」

 と、後ろで見ていた六条。

「だいぶ判ってきた。今の俺だったら、相手が2、3匹くらいなら一人で何とかなるぜ」

 俺も体の砂を払いながら言う。

「油断は禁物」

 それを聞いた六条がボソッと言った。


 おかげさまで同化ってのは出来るようなった。

 相変わらず、イメージした時に俺の中で何か変化を感じられるワケじゃないが、それでもいざ戦ってみると段違いのパワーを発揮出来てる。多分これで良いはずだ。


 結果として、俺達は今の戦闘でも白星を獲た。

「今日はもう少し徘徊しましょう」

 とだけ、六条は満ち足りた顔で言うと、スタスタと歩いて行った。

 今の表情からすると、六条も俺が力を使えるようになった事を素直に喜んでいるのだろう。


「結局、純志麻との再戦はいつやるつもりだ?」

 俺も六条の後を追いながら問いかける。


「明日かしらね。別に今日でも良いと思ったけど、今、この街のどこからもアイツの波長を感じられない」

 と、六条は答えた。


 明日か。出来れば、もう少し時間が欲しかった。


 六条が奇術を使い出したのは昨日から。

 しかも、昨日から今の今まで、まだ数える程しか吸血鬼と戦っていない。

 ほんの数戦こなしただけでボスに挑んで大丈夫なのだろうか?


 俺はだいぶ力を使えるようになった。でも、六条はレベルアップしてるのか?

 ここ数戦は俺のフォローばっかりで、六条自身の特訓になってないのではないか。

 そう思えてしまう。


 六条にはもっともっと強くなってもらわなきゃ、俺が困るのだ。

 そう。あわよくば、ラスボス吸血鬼さえも楽に倒せるくらいに。


 俺はあくまでサポートに徹したい。それだけは、力を使えるようになっても変わらない考えだ。

 要は少しでも安全な場所に居たいのさ。


 六条の急ぐ気持ちは判らなくもない。

 早いうちに純志麻を倒せば、それだけ吸血鬼化させられる人間が減るのだ。

 俺達人間を、街を救おうとするその姿には敬服する。


 しかし、レベルアップしたのかどうかも判らない六条が、今純志麻と戦っても、結局急いで再戦した結果、六条だけでは力及ばず、俺まで前線で戦わされるハメになるんじゃないか、と言うイヤな予感がしてならない。

 それだけが不安でしょうがなかった。


「……ってかさ、こんなだだっ広い街ん中でも、波長って判るもんなの?」

 と、すっかり会話が途切れた俺達の間に漂う微妙な空気をどうにかすべく、俺は六条に質問する。


「弱い吸血鬼だと近くなきゃ判らない。でも、強い吸血鬼の波長なら大体判る。しかも二度も会ってる相手なら尚更」

 俺の方を向く事もなく、前を見たまま六条は答えた。


 あいつの波長を覚えたって事だろうか。

 そう言えば、六条が黒霧の家に襲来した時も、俺の波長を辿って来たみたいな事を言っていた気がする。

 って事は、俺から放たれる波長を辿って、浅葱の家にも吸血鬼が来る可能性があるんじゃないか?

 そしたら薫達をも巻き込みかねない。これは早急に葉月さんに相談した方が良いだろう。



「ちなみに、純志麻戦はどういう作戦で行くよ?」

 六条の横に並びながら俺は更に問う。

 こいつ、背が小さいくせに歩くのが無駄に速いのだ。ついて行こうとすると、俺も早足にならざるを得ない。


 六条は特に考えた様子もなく、

「二人同時に飛びかかりましょ」

 と答えてくれた。


 作戦でも何でもないよね、それ?

 せめて、二手に別れて俺が先に攻撃して、間髪入れず反対から六条が攻撃するとかさ。


 ってか思った通りだよ。やっぱり俺にも前線で戦わせる気まんまんだ。


「それはやめようぜ」

 自分の命の危険を感じた俺は六条に抗議した。

 そして、即座に別の案を提案する。

「やっぱ六条が先にツッコむべきだよ。やっぱ、最初の一撃は大事だと思うし」


 しかし六条は、

「作戦を立てても、それ通りに出来る保証はない。どんな状況でも臨機応変に対応出来るようにだけして」

 とか言い出した。


 俺の案はものの見頃に却下されたが、確かにそうか。


 頭の中で思い描くのは簡単だ。俺の脳内シュミレートでは、純志麻の動きは今まで戦ってきた吸血鬼の動きを前提に考えられている。

 もし、純志麻がそれらと全く違う動作をした場合、作戦は何の意味も持たなくなる。

 そのせいで攻撃を避けられなかったりしたらシャレにならない。

 逆に作戦と言う糧に捕らわれずに戦った方が、柔軟に動けるんじゃなかろうか?

 そう考えると、六条の言い分はもっともだった。


「……そうだな。何が起きるか判らない。その時その時の閃きを大事にしよう」

 ま、閃きより何より、たった一つしかない命の方が大事なんだが。



 二時間あまりの徘徊の末、俺と六条は無事に本日の殲滅を終えた。

 今は俺の部屋で反省会的なモノを開いている。


 結局、あの後俺達は吸血鬼と二度遭遇した。

 遭遇した吸血鬼は一回目も二回目も一匹だったため、練習を兼ねて二回とも俺が相手をする事となった。

 結果は瞬殺。こりゃもう大丈夫だろう。

 いい加減自分の身は自分で守れそうだ。


 しかし、俺が戦っている間、やはり六条は見てるだけ。

 俺が吸血鬼を倒すと、六条は良くやったと褒めてはくれた。

 六条、お前はこんなんで大丈夫なんだろうか。


 反省会中、六条とは色々な会話をした。

 反省会の内容は、もちろんさっきの殲滅での反省がメインだったが、途中で話は完全に脱線。気が付けば、今日の夕飯の反省会になっていた。


「なかなか良く出来たと思うけど」

 何を言っても、六条はこれっぽっちも反省しやがらない。

 自分の殺人料理を自画自賛するだけ。


 今度ユマっぺに料理を1から教えてもらうべきだ、コイツは。

 そうすれば少しはまともになるだろうよ。


 それ以降も、そんな感じの会話ばかりで、完全に話は明後日の方向へ。

 もう反省会とか関係なく、ただただ普通の談笑になってしまっている。


 正直ここまで六条との会話が弾むとは思わなかった。

 あの、六条相手にだ。凄い事である。



 気付けば、時刻は深夜一時を過ぎていた。

 そんな終わりの見えない、特に中身もない会話に終止符を打ち、そろそろおひらきにしようと言い出したのは、六条だった。


 明日は遂に純志麻との戦いだ。

 しっかり体の調子を整えておかなきゃいけないのは判っている。

 しかし、俺はもう少し話をしていたかった。今こそバカな話をして平然としてられてるが、部屋に一人になったら、今まで抑えていた色々な不安やら何やらが俺を襲いそうで。それがイヤだったから。


 六条は俺が次の言葉を発する前に、小さくあくびをしながら、おやすみ、と言って部屋を出て行く。

 次いで俺の耳に届く、襖の閉められる音。


「……」

 一人になってしまった。

 案の定、俺は不安な気持ちにさせられた。


 力を使えるようになってまだ一日。実際に吸血鬼と戦ったのだって数える程。

 俺としてはボス戦こそ六条に任せたいのだが、六条は俺にも前線で戦わせる気だ。


 俺が力を使えるようになった所で、結局、純志麻には絶対防御的な力がある。

 殴ったりの肉弾戦になりかねない俺じゃ、何の役にも立てない気がする。


 むしろ、六条の奇術の方が良いんじゃないのか?

 いくら純志麻の絶対防御と言えど、炎に包まれればさすがにダメージは通ると思うのだ。


 ってか、明日に限って力が使えなかったらどうしよう。間違いなく殺される。


 考えれば考える程、どんどん不安になって行く。正に泥沼である。


「ぁ゛~~~~~~……」

 不安で不安でしょうがない。


 犬神咲羅は結構ネガティブ思考な女の子だった。

 そんな彼女に、いつも俺は楽観的に生きようぜ。とか言っていたが、そんな俺も、いざこう言う場面に出くわしてみたらネガティブじゃないか。


 楽観的に生きよう……か。

 無理無理。楽観的になんて無理だよ。死活問題だ。


 俺はいつも咲羅に、随分適当な事を言っていたんだなと実感させられた。

 これからは、一緒に悩んでやれるくらいの男になろう。


 とりあえず寝ようと布団には入ったはみたが、様々な雑念が俺の脳内を飛び交い、全然眠れやしない。

「………………」


 目を瞑ってから何時間それらと格闘したか判らない。

 思考が停止して眠りにつけたのは、外が明るくなった頃だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます