10月31日(木) 裏切り

 ◇

「おかわり」

「は、はぃ!」

 六条から茶碗を受け取り、ユマッペがあたふたとご飯をよそいに行く。

「す、凄い……おかずもなくなり銀シャリのみなのに……もう4杯目なのに全然ペースが落ちない……だと……?」

 薫は薫で驚異的なペースでご飯を食べ続ける六条にすっかり驚嘆しきっている。


 てか、終われやぁああああああ!

 綺麗に終わらせようとしたんだから終われやぁあああ!

 俺1人の人生だけ終わらせてたまるかよ。俺が終わるならこの作品ごと終わらせてやろうってのに……


 しかしマジな話、何故、六条れいんは浅葱の家にいたのだろうか。

 何故、俺達兄妹の服を盗むと言う暴挙に出たのか。等と様々な疑問が俺の脳内を駆け巡り出したのとほぼ同時に、六条はその場に居合わせた心優しき二人の少女の手によって保護された。


 未だ幼き少女二人の俺への認識は、下着泥棒から暴漢の疑いへと悪質なまでのランクアップを遂げ、今に至る。


「てことは、六条さんはあの人のクラスメイトですか?」

 女性陣から離れた場所に正座させられた俺を指差しながら薫が六条に問う。

「そう」

「お、お二人の関係は本当にただのクラスメイトなんですか……?」

 と、再びご飯の盛られた茶碗を六条に渡しながらユマッペも問う。

「そう」

「あんな事する仲だし……恋仲って事は?」

 と、またまた薫が問う。


「な――――」

「それはマジでない!」

 六条の否定の言葉よりも速く、俺は声を荒立てながら否定する。

 しかし、

「お兄ちゃんは黙ってて」

「はい」

 容疑者の言葉になど聞く耳を持たない薫がそれを制した。

 最早俺には発言権などなく、こうして黙ってるコトしか出来ない。


 自分の意見を述べたくても述べられないと言う現状に、俺もいい加減腹が立ち始めた時――――


「こんばんわぁ」

 何も知らない第三者が、にこやかに登場した。葉月さんである。

 余計な茶々を入れて話をややこしくしないでくれよ?


 だがしかし俺の望みも虚しく、居間の現状を目の当たりにした葉月さんの第一声は、

「あれ。なんで居間にれいんくんが?」

「……知り合いかよ!!!」

 ぅおぉおおおい! 本当に話をややこしくしてくれやがったよ!


 口をポカンと開けて唖然とする俺の傍ら、葉月さんは俺の隣にのん気に腰を下ろす。


「葉月さん……知り合いなんですか?」

 さすがの薫もこの展開には驚いたようだ。

 ユマッペもビックリしたようで、目をパチクリさせている。

 当然の反応だった。

 皆が各々の反応を見せる中、当の六条れいんは無言で箸を動かしている。

 いい加減箸を置け箸を。何で一番の当事者がずっと飯食ってんだよ。


 そんな六条を見ながら、葉月さんはいつも通りのお気楽な感じで話を進め出した。スマイルも健在だ。


「あぁ、僕の親戚の子なんだよ。彼女は六条れいんと言ってね。ちょっと事情があって暫く預かるコトになったんだ。と言っても、僕の元では預かるにも場所がなくて。ここなら空き部屋も沢山あるしと思ってね。

 でも君達の前に一人で出向ける程気が強い子じゃないから、僕が来るまでは空き部屋で待機するように言っておいたんだよ」


「気が強くないだ? 嘘つけ!」

 皆の視線が、無言で口を動かし続ける六条に注がれた。


「凄く大人しい子だから。仲良くしてあげてくれるかな?」

「どどどどこがだぁああああ!? 気性が荒いにも程があるぞ!!  ソイツは自分の思い通りにならないと直ぐ暴力に訴えるんだ!!」

 言いながら、俺は六条に指を突き付けた。

 ってかマジ箸を止めろや! いつまで食ってんだてめぇは!?


 しかし俺の声など耳に届かなかったのか、

「は、はい♪ よろしくお願いします、れいんさん♪」

 と、素直に改まって礼をするユマッペ。

 をいをい。


「わかりました。これからよろしくお願いします。浅葱薫です」

 と、薫も続く。

 マジかよ!? 嘘だろ!?


「なんで何処の誰とも知れぬヤツを簡単に受け入れられるんだよ……」

 俺は少女達を見つめながら小さく嘆いた。


 ◇


「悪いんだけど」

 と、六条れいんの居候が忍を除いた二人に認められたのを確認すると、葉月は今までに無い、真面目な声のトーンで次なる言葉を発した。


 そして一息つくと、

「ちょっと黒霧のコトで忍くんと大事な話がしたいんだ。悪いけど席を外して貰えるかな?」

「えっ……はい」

「……?」

 友真や薫が頭の上に?マークを浮かべながらも素直に居間を後にする。

 が、暫くして友真は襖の隅からひょっこりと顔を覗かせた。


 それに気づいた忍は何事か、と友真を見ていると、

「忍さん。さっきは悪ノリしてすみませんでした。ご飯、後で温めて食べて下さいね」

「あ、ああ……ありがと」

「じゃあ私は帰りますね♪ おやすみなさい」

 それだけ言って、再び顔を引っ込めた。

 てか悪ノリだったんかい!


「それで? 俺との話なら、そいつはいらないんじゃないんすか?」

 話がしたい、と名指しで居間に残された忍は、悠々と座ったまま、未だにご飯を食べているれいんを指差して嫌味ったらしく言い放つ。


「いや、彼女にもここに居て貰うよ」

 静かに返答する葉月の顔からは、いつものスマイルが消えている。

 と言うことは六条絡みの話か、と忍は頷きながら考えた。


「単刀直入に言うよ」

 葉月が忍の目を見つめながら言う。思わず目を背けたくなるような気分だったが、これからの会話が普通で無いことを考えると、忍も目を逸らすコトなく頷いた。

「……ああ」と。


「彼女は対魔用殲滅師養成機関からこの街に派遣されたハンターの一人だ」

「それなら昼間聞いた」

「あれ? そうなのかい?」

 さすがの葉月も忍の反応には驚かされたようだった。

 驚かそうとした自分が逆に驚かされる。正にしてやられた葉月は顔をしかめた。


「君達は初対面だと思ってたんだけど……もしかして、忍くんを生かしたハンターって……」

「私」

 無表情で答えるれいん。


「そう言う事か……」

 と、暫く考えた結果、葉月は納得したようで、一人大きく頷いた。


 イマイチ話が読めず、ポカンとしている忍に葉月は、

「ほら、前に言っただろ? この街に派遣されたハンターの中に僕の知り合いがいるって」

「言ってたけど……まさか」

「それが彼女だよ」


「……まじか」

「まじだよ」

 考えもしなかった返答に忍の思考回路はショート寸前だった。

 が、

「わかった……」

 今までの経験からか、思わぬ展開にも瞬時に対応できる順応性が忍の中に芽生えつつあったようで、

「昼間、六条が知ったのは最近って言ってたけど、そう言うコトか」

「そう」

 頷くコトはせず、口頭だけで肯定するれいん。


「でもお前、この街に派遣されたハンターは自分一人って言っただろ?」

「言った」

 再び口先だけで肯定するれいん。


 それを確認した忍は葉月を睨みつけながら、

「でも葉月さん。あんたは“ハンターの中に”って言ったよな! この街にハンターはこいつしか居ない! なんで話をややこしくするような言い回しするんだよ!?」


 忍に核心をつかれた葉月は一瞬表情を曇らせたが、

「いや、僕が機関の一員だった時は、一つの街に必ず3人から5人のハンターが派遣されるシステムだったんだ。決してミスリードとか読者を騙そうとしたワケでは――――」

「今年から一つの街に対し1人から3人の派遣、と規定が変わった」

「そうなのかい?」


 まるで葉月のフォローをするかのように、珍しくも長たらしい発言をするれいん。


「主に大きな街には三人。比較的小さな街には一人とされてる。小さな街でも標的の危険度によって二人以上とされる事もあるけど」

「知らなかった……」

「知らないのも致し方ない事」


「をい! 呼び止めておきながら、俺が判らないネタの話をするんじゃねぇよ!?」

 二人の機関話について行けない忍は、その会話を止めさせるべく横槍を入れるしかなかった。

 更には卓袱台を叩きつけ葉月を指差しながら、

「てゆうか葉月さんよ、機関の一員って……あんたもハンターだったのか!」


 忍にそう言われた葉月はいやいや、と例のスマイルを振りまきながら、諭すように言った。

「僕はハンターじゃない。機関の医療施設にいたんだよ。三年程ね?」

「医療施設?」


「そう。だけど君達、浅葱と関わって行くうちに、普通に医師を目指したくなって途中で抜けたんだ。

 それに僕がハンターだったら、今、こうして医師をやってないよ。機関に雇われたハンターは、一生涯機関に所属すると言う約束の下で入るコトになってしまうからね。抜けるコトはできないし」

「ハヅキが辞めたのは3年くらい前だったかしら?」

 と、れいんも葉月に続く。ここまでの話で疑問が生じた忍は、葉月にそれを問いかけるコトにした。

「浅葱と関わっているうちに?」と。


 その質問に対し葉月は、

「そうだよ」

「機関に所属してたんだろ? なのに浅葱と関わる暇なんてあったのか」

「あったよ。基本的に機関への出入りは自由でね。僕は負傷者が出た時にだけ戻れば良かったんだ。非常勤とでも言おうか」

「まじか。機関ってのは近所にあるのか?」

「それは辞めた者の決まりで言えないけど。でも僕は神様だよ? どんなに近くにあろうが遠くにあろうが、テレポーテーションくらいはできる」

 えっへんと胸を張る神様。


 しかし、

「出来た、の間違いでしょ。今のハヅキからは、あの時ほどの魔力は感じられない。普通の生活を送っているうちに衰えたんじゃない?」

 れいんに衰えを指摘され、葉月の顔から笑顔が消える。

 忍は話の脱線を阻止し話を進めるため、質問を続けた。


「……六条にも生まれつきハンターとしての力があったのか?」

「う~ん……前にも言ったはずだよ」

 忍からすれば、それはれいんに対して投げかけた質問のはずだった。

 だが、答えたのはれいんでなく、またしても葉月だ。


「潜在能力と同じ。後は何らかの要素によって力を開眼させたり……この間言った通りだよ。彼女の場合は――――」

「言わなくていい」

 葉月がそこまで言った時、黙って回答を聞いていたれいんがソレを制した。


 葉月は葉月で、今のれいんの言動の意味を理解したのか、

「まさか……だから忍くんを助けたのか……?」

「……」

 れいんは答えない。


「なんだ、なんだってんだ? これじゃ俺だけ仲間外れじゃねーか」

 最早、二人の会話は忍には訳が判らなかった。ただ葉月とれいんを交互に見比べるしか出来ない程に。

 そんな忍に悪いと思ったのか、葉月はれいんと小声で何かを相談し、

「これだけは言えるよ。彼女も力を開眼したのは最近だ。不確定要素によっての開眼だった」

「不確定……要素……?」

 むむ……と唸りながら、その不確定要素が何なのかを考える忍。


「もう質問がなければ本題に入りたいんだけど」

 と、本題へ入る前に湯呑みにお茶を注ぎながら、葉月が言う。


 すると忍は、

「あ、待って。さっきの話だとハンターである六条は……死ぬまでずっと機関に所属してなきゃいけないのか?」

 慌てて質問を続けた。


 それに対してまたも葉月が、今度はお茶を啜りながら淡々と語り出す。

「そうなるね。言った通り、ハンターとして入った人は皆、一生涯、死ぬまでハンターとして戦うコトを義務付けられる。

 ハンターは常にどこかに派遣されているのが普通だから、さすがの機関もハンター全員の行動を監視できないんだ。

 酷い時は海外に出向く場合もあるからね? だから派遣中の裏切りを阻止する為に、2日に一度、機関に現状報告をしなければならないんだ」

「……そんな所に入るヤツいるのかよ」

 自分で聞いておきながら忍は呆れ返った。


「ハンターになる人は殆どが鬼種としての力に目覚めた孤児や、世間の営みから隔離された人間なんだ。そう言う意味では、機関はハンター達にとって施設と同じ。たった一つの家なんだ」


「だからって、そんな拘束ばっかするような所に入るなんて物好きもいいとこだろ。自由もクソもないじゃないか」

 いつの間に注いだのか、湯呑みを口に運びながら忍。


「忍くん、そんな言い方は――――」

「無理矢理入れられたハンターもいるんじゃないかってコトは考えないの?」

 と、葉月の言葉を遮って、棘のある言い方をしたのはれいんだった。


 それを聞いた忍はお茶を一気に飲み干すと、れいんに指を突きつけながら自分の考えを率直に言ってやる。

「ふぅん。じゃあお前は無理矢理入れられたハンターだってのかよ? お前だって今まで機関様に、今日は何匹化け物を退治しました。って報告して来たんじゃねぇのか?」

「……」

「無理矢理入れられたヤツが律儀に報告なんてするか? 嫌だったら機関様に報告なんてしないで、裏切り者にでも何にでもなって抜けてみやがれってんだ。

 ま、それが出来ないから今まで機関の犬になってたんだろうがよ」

 さすがにヤバい雰囲気だと感じた葉月は、とにかくフォローに回るべく、

「裏切り行為は機関内じゃタブーだ。そんなコトしたら解雇どころじゃない! それに――――」

「してない」


「……え?」

 れいんの発した本当に小さな声に、葉月も忍も、一斉にれいんに視線を向けた。


 れいんは手元で箸をいじりながら、さっきと変わらぬ小さな声で、

「私はクロギリシノブを助けた時から、機関への報告は一切していない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます