エピローグ

 それは残酷だけれど、どこか幻想的な光景だった。

 俺の頬を一筋の雫が滴り落ちた。


 涙ではない。


 俺はコイツを殺した事を微塵も後悔などしていないのだから。


 遠くで一度空が光ったと思うと、雷鳴と共に雨が降り始めた。

 いつ降ってもおかしくないくらいだったが、今、それは戦いの終わりを告げるかのように。


 俺の心境を投影するかのように、ザーザーと、降り始めた。



 ◇


 黒霧忍は雨の中、傘もささずに夜道を歩いていた。

 行く当ても無く、ただゆっくりと。ふらふらと。


 マンションの周りには、六条れいんの姿も血の跡もなかった。

 人間とは思えぬ怪力や運動能力を持っていた六条もまた怪物で、女吸血鬼と同じように塵となって消えたのだろうか。


 忍は濡れた体のまま、道で見つけた自販機の脇に腰を降ろした。

 そして漆黒の空を仰ぎながら小さく、念仏を唱えるように呟く。


「どうしろってんだ。これから」


 時間は戻らない。


 家族の死も、人では無いにせよ自分が人の形をしたモノを殺したという事実も。


 全てを無かったことにすることはできないのだ。

 無常にも時間だけは刻々と過ぎて行く。


 ふと、自販機の前に黒い車が止まった。高級そうな外車である。

 車から人が降りて来るが、こんな姿はあまり見られたくないと思い、人影から見えないよう、忍は自販機の影に隠れるように身を小さくした。


 が、その動作は無意味だった。


「えっと、黒霧忍くん……だよね?」

「誰?」


 忍の上に傘を差し出しながら声をかけたのは白衣を身にまとった男性だった。黒縁メガネが良く似合う。


「うーん、そうだね……敢えてこう言おう」


 忍は答えない。ただ、雨の中路頭を彷徨う捨て猫のように男を見上げるだけ。


「僕は葉月前はづきぜん。神様だ」

 男はニッコリと微笑んで、言葉を継いだ。


「今後の事を話したい。ちょっといいかな?」

「はぁ……」

 忍は項垂れたまま、魂の抜けた人形のように、小さく頷いた。



【第一章・一語一会:了】

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