10月28日(月)一体俺が何をした

 生唾を飲み込む俺の気持ちなど知る訳もなく、再び刀を構え直す六条れいん。

 その剣先は今度こそ俺を射止めようと、ピタリと俺の額に向けられている。


 おいおい、もう一度避けられる自信なんて俺には無いぞ?

 さっき避けられたのはタダの瞬発的なモノなのだ。

 言わば偶然が生み出した産物であって、もう一度狙ってやってのけるなんて不可能。

 おまけに情けなくも腰を抜かしてしまった今の俺には、もう奴の攻撃を交わす術は無い。てゆうか余りの恐怖に膝が笑ってしまって立つ事も出来ない。


 だってそうだろうよ?

 転校初日にして顔合わせから未だ数十分しか経っていない。

 ろくに打ち解けてもいない状態で、しかもそれでいてムカツクくらいの美少女に刀を突き付けられ、躊躇無く問答無用にソイツを振り回される。おまけに無表情。


 これほどの恐怖がどこにあると言うのだ!?


 何度でも言ってやる。

 これほどの恐怖がどこにあると言うのだ!!!


 そもそも俺達は、一体学校で何をしているのだろうね。

 西棟では今も尚生徒達が悠々と文化祭の準備に専念していると言うのに、何故俺だけがこんな謎のB級小説の主人公の様な展開を迎え一人悩み抜かなければならんのだ。人生不公平にも程がある。


 もしや相次ぐ殺人事件も全てこいつが起こしていたのではないか?

 そんな疑念すら今の俺には持ててしまう。

 終いには人間不信になってしまいそうだ。


 しかし今の現状を思い出すと、こんな考えは余計な雑念なのだと急遽自分で自分に言い聞かせ、六条に向き直る。

 あわよくばコレが俺の見ている夢であれ!と願いながらな。



 カチャリと、あたかも俺に見せつけるように、わざとらしく乾いた音を立てて刀を握り直す六条さん。

 クソッタレ! やっぱり夢じゃなかった! これは現実だ!


 畜生。認めたくない現実を改めて思い知らされ、苦々しくも舌打ちした。


 何がなんなのかを考えるのは後だ。

 こうなれば今の俺には、この現状の脱出が一番の最優先事項となるのだからな。


 とりあえず即席の案だが考えてみた。


 解決策1。

 とにかく逃げ切り警察等に事情を説明する。だ。


 その場合、まず警察に通報するにしても安全な場所で無くてはならないだろう。

 さっき六条の野郎は『やっと二人きりになれた』そう言ったのだ。

 だから、通報する前に人の居る西棟まで何とかして逃げ切れれば、希薄だが助かる見込みだってある。

 まぁ六条が西棟の人間を皆殺しにしない場合の話だがな。


 解決策2。

 我が身を賭してコイツと戦う。だ。


 いや馬鹿か、刀相手に素手で敵う訳が無いだろう。前言撤回だ。

 我が身を賭してコイツと戦い、敢え無く殺される。に変更だ。


 嫌な例えではあるが、奮闘の末俺がここで殺されたと仮定しよう。

 帰りの遅い俺に佐久間が痺れを切らしてくれれば、少なくとも5人以上編成の黒霧忍探索部隊が出動を余儀なくされるだろう。


 そうして探索の末に発見される俺の変わり果てた姿。更にはその場から消え去った六条れいん。(人を殺しておいて、その犯人がヌケヌケと犯行現場に滞在したままな訳がない。と言う俺の想像だが)


 後は情報通の佐久間会長の人間離れした推理力から、転校生六条れいんが犯人だと解っていただければいい。

 この場合『六条れいん』と言う名前すらも本名かどうか疑わしい。


 転校初日にして初対面の俺をいきなり殺そうとするなど、あからさまな殺人目的の人間の転校なのだからそう考えたって不思議ではない。

 そんな殺しの為だけに来た学校なら、もうすぐ死ぬであろう他人に本名を名乗る義理などないのだからな。

 何なら、余裕さえあれば六条が犯人であると判るようにダイングメッセージを残したっていい。


 そこまで行かなくとも警察側にお願いして、懸命な調査をしてもらう。

 そして調査の元、六条れいん(もしかしたら偽名かも知れない)を全国指名手配。

 晴れて六条れいん(以下略)が捕まったとすれば、俺は『連続殺人犯逮捕に命を賭して協力したものの命を落とした、勇敢かつ無謀な少年』と、世間様では哀れみの目で見られながらも慕われるコトは間違いない。

 新聞などにも載って一躍有名になれるだろうから、まだ報われる。


 さて、答えだ。

 って、当然前者を選択させていただくさ。

 解決策2の様な、バッドエンドは真っ平ごめんなのだからな。


 この俺がそんな結果を望むとお思いですか? 世間様の為にこの俺が命を張ると思いますか?

 そんなのは間違っている。メンマが割り箸で出来ていると言う情報くらい間違っている。


 所詮人間我が身が一番可愛いのだ。

 だから赤の他人がそこで転ぼうが笑おうが泣こうが死のうが、俺の知ったこっちゃねぇ。


 だが自分が。この俺が死ぬのだけは勘弁だ。全力で御免こうむりたい。

 この将来有望な黒霧忍、17歳。と言う逸材を殺すと言う行為だけは絶対にしてはならないのだ。

 てゆうか、まだ死にたくないもんよ。



 故に俺は必然的に解決策1を選択させていただく。


 後は意地でもこの状況を打破し、皆の居る西棟又は職員室に逃げ込むだけだ。


 何をするにも、まずは対抗出来る武器が必要だろう。

 とは言ったものの視聴覚室内を見回した所で、綺麗に整理されたこの部屋の中に武器になりそうなモノは無い。

 強いて上げるならパイプ椅子か。これなら攻撃にも防御にも使えそうだが、何か心細い。


 なら他に何がある。

 刀に対抗出来る武器や防具などこの教室には存在しない。美術室なら彫刻刀然りペーパーナイフ然り、いろいろありそうだが刃渡りから考えても刀には及ぶ筈がないだろう。


 ならどうする。素手でコイツに一撃を食らわせ、あわよくば怯ませ、その一瞬の隙をついて逃げ去るか?

 いや、まず立つコトが出来ない以上、行動に移すコトも出来ないじゃないか……


 って、この状態だと完全に終わりなのではないか? 詰んでね?


「死ぬ覚悟は出来たかしら?」

 静かに問い質す六条。

 出来てるワケねぇだろ。マジやめてくれ。


 せめて足が動くようになるまでは、何とか時間を稼がねばならないのだ。


 だから少しばかり時間をくれ。頼むから。


「一つだけ……聞かせろよ」

「……」

 六条は答えない。

 さっきのような否定がない所を見ると、言えという事だろうか。


 しめた!


「頼むから教えてくれ……何故俺を殺そうとする? 俺が何をしたってんだ? 理由も判らないうちは殺される訳には行かねぇよ」

 ま、理由が判っても殺される訳には行かないがな。


 六条は俺を見つめたまま動かない。

「おい……」

「それは……」

 六条が固く閉ざした口をゆっくり開いた。刀は相変わらず俺に向けられたままだが。


 さぁ、語れ。語れ六条!

 文字数にはまだまだ余裕もある。特に制限はないのだ。存分に語ってくれ。


「あなたが吸血鬼だから」


 ファーーーッ!w

 短く、物凄く簡潔にとんでも無いコトを言ってくれたぞ。

 何を言う出すかと思えば!!!


 てゆうか、こけし女子も言っていたが、最近は吸血鬼が流行っているのか?

 確かにもう10月下旬だと言うのにまだ多少の蚊は残っているが、俺は刺された覚えはない。

 最近の蚊は血を吸っただけで人間を吸血鬼にしてしまうのか? 彼○島じゃあるめぇし。

 いや、だから俺は血を吸われちゃいないって。気をしっかり持て、黒霧忍。

 違う質問にしておけばよかったと後悔してしまう。


「意味が判らねぇよ……」

 全くだ。自分で言って思わず自分で頷いてしまう。

「深い意味はない」

 と言う六条の返答。深い意味だらけだろうが。


「ちゃんと教えてくれよ。吸血鬼だ? まずそんなのがこの世居る筈なかろう? あんなのは神話とか作り話の世界の生き物だろ」

「馬鹿ね」

 いきなり罵倒されたが、そっくりそのまま、その言葉をお前に返すよ。

 君に届け、この思い。って感じだ。


「確かに吸血鬼は神話のモノ。だけど世界各国で、今も尚、吸血鬼伝説は新しく形を変え語り継がれつつある」

 感情の色を見せない六条。

 そりゃそうだろ。神話なら世界各国で広まるだろうさ。


「日本にも韓国にも、ロシアにも。違った形で吸血鬼は存在する。あなたのようにね」


 だからさぁ、俺が吸血鬼前提の話は止めてくれない? 漫画とかドラマの見すぎだよ。


「俺は吸血鬼なんかじゃないって。いい加減にしないとホント先生に言いつけるぞ?」

「私には判る。あんたからは吸血鬼の波長が出てる。だから殺すだけ」


 ダメだ、聞く耳持たねぇ。

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