亥 ―イノシシ―
兵庫県神戸市の南部に、
昔、ここから少し離れたところに住んでいた。
ここは少し北側にある六甲山系から下りてくるイノシシの通り道になっていたようで、三面がコンクリート護岸となっている川の水の少ない河床でイノシシが寝ていたり、幼獣であるウリ坊が走り回っているのを見ることができた。河床までは7〜8メートルほどあり、そこへ行き来する道はない。だから、まるで動物園感覚でイノシシたちを眺めることができた。
その後、上流側で何があったか不明であるが、イノシシは下りてこなくなったようで、近年でも時々所用で近くを通るが、イノシシは見ていない。
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さて、当時はよく知らなかったのだが、天井川とは本来、河川を堤防で囲んだ結果、流下して来る土砂や砂礫がその間に堆積し、河床が高くなると堤防も高くする、ということを繰り返した結果、河床の方が周りの土地、通常は街並みよりも高くなってしまった状態を指す。
前出の神戸の天井川の場合、かつては地形としての天井川であったため、河川名も天井川と名付けられた。その後、工事により天井川ではなくなってイノシシたちを川沿いの道から見下ろせるようになったが、河川名は天井川のまま残ったというややこしいことになっている。
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それはさておき、六甲山系のイノシシは特殊で、すっかり人馴れしてしまっている。
仕事だけでなくプライベートでも六甲山周辺にはよく行ったが、時折イノシシに遭遇した。イノシシたちも特に縄張りを主張してくることもなく、普通に登山道ですれ違っていた。
また、イノシシたちは餌を探してか、たまに街の方へ下りて来ることもあった。そんな時には、地元の新聞に載ることもあったが、大きな被害は出ていなかったと思われる。
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一方、神戸以外の多くの場所では、イノシシは危険な生き物で、牙にやられて大怪我を負ったという話もある。
クマと同じで、余裕ある場合は逃げていくようだが、出会い方が悪いと襲われることもある。
筆者は、昆虫調査の現場中に何度かウリ坊を見たことがある。この場合、親も近くにいる可能性が高いので、できる限り離れるようにしている。
幸いというべきか、親には車を運転中にしかあったことがない。
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イノシシには泥浴びの習性があり、山林で土を掘り返して泥浴びをした形跡をよく見かける。
このような泥浴びの跡をヌタ場(沼田場)というのだが、この仕事を始めた頃には予想外にヌタ場の数が多くて驚いたものだ。
なお、この泥浴びは主に寄生虫を落とすために行っているそうだ。他の動物の水浴びや砂浴びと同じようなものだ。また、体を冷やすために行っているという説もある。
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さて、干支シリーズの当初の目的であった年賀状用のネタであるが……。
植物では、イノコヅチという名を持つものがいる。
よく見かけるものはヒナタイノコヅチかヒカゲイノコヅチのいずれか。
茎に膨らんだ部分があり、それをイノシシの
由来からイノコヅチと表記するのが正しいはずだが、文献によりイノコズチとされることもある。
いわゆる『ひっつき虫』の一種で、調査員としては草むらを歩いていると 網やズボンが種だらけになるので、あまり好きではない植物の一つである。
このイノコヅチ類を食べる昆虫も何種かいて、イノコヅチカメノコハムシのようなその名に冠するものもいる。
ただ今のところ、年賀状に使えるような写真はない。
天井川のイノシシの写真も、まだデジカメの普及する前にフィルムカメラで撮ったものがあったはずなのだが、残念ながら現在の在り処はもう分からなくなっている。
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