サボテン
突然だが、サボテンを育てたことはおありだろうか。
サボテンは緑色の球状や柱型の幹のような部分から針状のトゲを多数生やした多肉植物だ。南北アメリカ大陸とその周辺の島などに二千種以上が分布している。
もちろん日本には自生しないのだが、栽培種から種や子株が飛んだか、あるいは誰かが捨てたりわざと植えたりしたか、野生化したものも見られる。
国内ではなぜか海岸によく生えている。
こういう野生化した栽培植物は植物調査でもよく記録される。
筆者の記憶に残っている例では、アスパラガスが調査中に見つかったことがあった。葉が伸びていて普段見ている野菜の姿とは大きく異なり、普通の図鑑には載っていないので、植物担当者は同定に苦労したらしい。
◆
砂浜を含むある平地の現場で調査をした時のこと。
砂浜は塩分の影響を受けるだけでなく、強風に吹かれたり、砂に埋まったりと、普通の生物にとって過酷な環境ではあるが、砂浜にも独特の生態系がある。
海岸の砂浜には、ハマヒルガオやハマボウフウ、ハマゴウなど砂浜に特有の植物が生えている。昆虫でも砂の上や砂中で暮らす甲虫類や、砂の中に巣をつくるハチのほか、いろいろな種類がいる。これらの種には、海岸だけで見られるものと、大河川や湖の岸の砂地でも見られるものがいる。
そのような海浜植物に混じって時々生えているのが、サボテンの仲間のウチワサボテン類だ。
このグループでは、茎に当たる部分が肉厚の葉を連ねたような形をしている。葉のようなと書いたがそれは形だけで、一般的な植物の葉に当たる部分はサボテンではトゲになっている。
そして、ウチワサボテンには……専門外なのでこの仲間のすべてがそうであるかは知らないのだが……針のようなトゲに加えて、髪の毛のように細いが鋭いトゲが多数生えている。
厄介なことにこの細いトゲには、先端に肉眼では見えないくらい細かいかえしが付いている。
これは釣り針等に付いている、針先とは反対向きのトゲで、刺さった針が抜けにくくなる効果がある。
筆者はサボテンを育てたことはないので、その細かい針についてはまったく知らなかった。実際に刺されるまでは。
ウチワサボテンの説明はこれくらいにして、以前の現場の話に移るとしよう。
砂浜に生息するハチが、開花中のハマゴウの周りを飛んでいた。
捕虫網を構えて近づくと逃げていったので、海浜植物の群落に踏み込んで追いかけた。
ウチワサボテンがそのあたりにあるのは見えていたが、毒があるでなし、刺さったところで注射より少し痛い程度、と甘く見ていた。
不意に、すねに何かが刺さった感触があった。うっかりサボテンに当たったらしい。
予想していた痛みとは違う感じで、痛くはないのだが、ヒリヒリする感じだ。はて、毒はないはずだが。
そのせいでハチは取り逃がしたが、それは仕方ないとして。
作業ズボンをまくりあげて驚いた。
髪の毛のような細いトゲが数本から十数本、まとまって体に刺さっていた。
細いが鋭いトゲはズボンを貫通してすねに刺さり、そのまま生地を通り越して体に直接刺さった状態となっていた。
前述のかえしのせいで自然にはなかなか抜けなさそうだ。
そのため、刺さったトゲがズボンと擦れて、歩くたびにチクチクヒリヒリと弱い痛みを発し、まるで毒にやられたような状態となっていた。
すねに刺さったものは数本ずつ指で抜いて処理したが、どうも太ももにも何ヶ所か刺さったらしい。
だが、そこまではうまくズボンが上げられない。
近くに公衆トイレでもあればよかったがそれはなく、近くにあった人気のない林に駆け込んで、ズボンを下ろして処理した。
針が細かったのが幸いしたか、抜いてしまえば特に後遺症などはなかった。
◆
というわけで、ウチワサボテンを育てたことのない方は、園芸店やホームセンターなどで見かけても不用意に触れないようご注意下さい。
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