啓蟄

 二十四節気の一つ、啓蟄けいちつ

 冬眠していた虫が姿を現す、というような意味の言葉である。

 今年2023年の啓蟄は、3月6日。


 実際、3月になると暖かい日には公園の花壇などで虫が飛んでいるのを見かけたりする。

 とはいえ啓蟄を過ぎたからといって、突然急に虫が増えるわけでもない。

 どんな状態で越冬するかは虫の種類によって異なり、成虫で越冬する虫は早々と出てきたりするが、卵や幼虫で越冬する場所は多少時間がかかる。サナギで越冬する虫だって、今日は温かいな、じゃあ羽化しようか、というわけにもいかないのである。


    ◆


 一方、仕事の方はというと。

 年度末の3月で前年度の仕事はほぼ終了。4月になれば新年度の仕事が発注され始めるのだが……。

 この後、受注者の募集、入札、正式な発注および受注、打ち合わせ、計画書作成、下見など諸々を経て、現場に入れるのはだいたいゴールデンウィーク明け。

 早ければ4月下旬には入れたりするのだが、その場合現場の帰りくらいにゴールデンウィークの渋滞に巻き込まれて、大変な目にあうのも珍しくないのである。


 というわけで3月4月はひま……いや余裕があるので、仕事場の整理をしたり、個人的に採集した標本の整理をしたり、ライトノベルを執筆してカクヨムに投稿したりしていた。

 一応、他にもやるべきことはないこともないのであるが……。


 今は現場がなく、室内作業だけだと体がなまってしまう。

 啓蟄を過ぎ、少し暖かくなったある日、運動不足解消を兼ねて、少し遠回りして都市公園の自然を観察することにした。


 公園では、少し小さめの黄色い蝶が一匹、花壇の周りを飛んでいた。


 3月●日、●●公園、キタキチョウ、1。


 メモ帳替わりに、スマホのメールに入力、下書き保存する。


 この種は成虫で越冬するので、春先最も早く見られる可能性のある種のひとつだ。


 幸先のいいスタートと思ったが、後が続かなかった。


 もう少し、山とか農村とか自然の豊かな所に行けば、冬眠中の虫たちも陽気に誘われて、飛んでいるチョウなんかも多かったかもしれない。

 しかし、まだコロナが完全に収束していない昨今、なかなか遠出も難しいのであった。


 しばしの間、人の少ない都市公園でベンチに座り、花壇など眺めながら、チョウの飛んで来るのを待っていた。

 頭の片隅にはカクヨム投稿やの小説のネタなどを考えつつ、時々スマホから執筆などしていた。


 近くにあった別の小さな公園にも行ってみたが、そこでも収穫はなく。


 例年そうなのであるが、都会の公園に春が訪れるのは、周りの山林よりも少し遅れるようである。


 これ以上データが追加されることがないと思われる、下書き保存しておいたメールを送信する。


 さて、そろそろ仕事場に向かおう。


 確定申告が待っている。

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