夜の仕事で起きた出来事
2023年3月8日、カクヨムのイベント、KACの第4のお題として、『深夜の散歩で起きた出来事』が発表された。
とりあえず完全オリジナルの作品を作るべく考えてみたが、いきなり深夜の散歩とか言われても何やら怪物くんの二次創作みたいなものしか出てこない。藤子先生は偉大である。
で、環境調査の経験から何か、とも思ったが、それは深夜の散歩ではなく仕事、それも通常は深夜まで及ばない。珍しく深夜までかかったオオサンショウウオ調査の話は、ハンザキのタイトルで以前書いたし、24時間の騒音振動調査とか、退屈なだけで文章にしても面白くもなんともない。
仕事を散歩にむりやり置き換えたら? 主人公か作中の筆者の言動が怪しいものとなる。実際パトロール中の警察官に職務質問されたことがあったけど。でも仕事中だったからなんの問題もなかったけど。
失礼。
KAC投稿用に、『ある環境調査員のメモ』の出張版を書こうかと思ったけど、やはり散歩ではないということで断念した。出張版というのは、KAC応募のためには、単体で作品を投稿する必要があり、連載中の1話だけあげてそれをKAC対象作とすることはできないためであった。
なおKACの方は沖浦数葉シリーズの新作を充てることになったのだが、それまで考えていた夜間調査の話をこのままお蔵入りとするのももったいないので、こちらに流用することにした。
あと、KACの完成までの時間稼ぎと、カクマラソンのための作品数稼ぎ。
以上、前書きというか、言い訳終了。
というわけで今回の話題は、『夜の仕事で起きた出来事』である。
今さらであるが、ここでは『夜の仕事』とは動物の夜間調査を指す。当然いかがわしいものではない。
◆
動物には、大雑把に分けると昼行性と夜行性の2種類がある。
ただ、実際にはそう単純に分けられるものではなく、その中間の夕方や明け方に活動するもの、日中から暗くなっても活動しているもの、状況によって活動時間が変わるものなどもいる。
ただ種類により、昼間の調査より夜間調査の方が効率的に確認できるという種は当然存在する。
筆者の経験した夜間調査のうち、ホタルとコウモリ、オオサンショウウオ(ハンザキ)の調査の話はすでに書いた。
昆虫の夜間調査の場合、大抵は虫を探して野山を歩き回るのではなく、こちらからライトを付けて光に集まる昆虫を捕獲するという形になる。これをライトトラップと言う。
以前は物干し台のようなものに白いシーツをかけて光を当て、そこに集まる虫を採集していた。研究者や収集家は一晩中やることもあるようだが、環境調査ではだいたい日没後から3時間ぐらいで終了になる。
そうやって飛んで来た昆虫を捕まえるのが目的であるが、たまに昆虫以外のものが来る。
と言っても大抵は人間である。ほとんどの動物は光と発電機の音を警戒して近寄って来ない。結構多いのは通りすがりの人であるが、ごくごくまれに警察も来る。
一度だけ、アナグマが来たことがあった。ライトトラップにくる虫を眺めていて、ふと気が付けばすぐ近くにアナグマがいて、同じように虫を見ていた。写真を撮ろうとしたら、ゆっくりと動いたつもりだったけど、すぐに逃げられた。残念。
近年ではこのライトトラップ、無人で一晩設置しておく罠のようなタイプが普及して、夜に山の中で仕事をする機会は減った。
少しは仕事が楽になったが、寂しさもある。
◆
中・大型の哺乳類については、夜行性の種であっても昼間に足跡や糞、その他の痕跡を見つけることにより、生息を確認することが可能である。それから、これも前に書いたが、自動撮影カメラもよく使われる。
それでも、哺乳類の夜間調査は現場によって時々行われている。それと、前出の昆虫類調査の行き帰りに哺乳類を目撃することもある。
多いのはタヌキで、山道を車で走ってると時々車の前を横切って行く。
たまに、シカとイノシシもみる。幸いと言うべきか、夜間にツキノワグマに遭遇したことはまだない。
一度だけ、カモシカを見たことがある。まだ会社員時代、珍しく東日本の現場に呼ばれた時のことだ。
慌てて車を停め、デジカメを取り出す。
辺りが暗いため、デジカメは勝手にシャッタースピードを遅くしてくれる。こちらの気配を感じて、カモシカも逃げようとする。さらには、焦ったため手ブレが発生。
それらが重なった結果、後で画像ファイルを確認したところ、そこに写っていたのは……頭が横に間延びしてあたかももののけ姫に出てくるシシガミ様のような異形と化した何かであった。
いや、被写体は間違いなくカモシカでしたよ?
◆
夜間の鳥の調査もある。鳥はみんな鳥目じゃないかと思われるかもしれないが、フクロウやミミズクの仲間、ヨタカ、サギの一部など、夜行性の鳥も存在する。
このあたりは鳥類専門の調査員の仕事なので筆者は詳しくないのであるが、フクロウ調査の手伝いをしたこともある。
録音されたフクロウの声を夜の森に向けて流すと本物のフクロウが応える、というようなもので、人手不足のため二度ほど補助員として駆り出されたことがある。
残念ながらその時には、何の成果も得られませんでした。
◆
もう一つは仕事中ではないのだが、現場の帰り、長距離移動などで遅くなった時にたまに起こる出来事。まあ、家に帰るまでが現場ということで、もう少し体験談を追加させていただく。
休憩にサービスエリアなどに立ち寄ると、灯りの周りで色々な昆虫が見つかる。原理は前出のライトトラップと変わらないのだが、街から離れたところにあるサービスエリアなどでは、周辺の山林から光に引き寄せられた昆虫類が集まってくる事も多いのである。
そこで一度、大きなオスのミヤマクワガタを見つけた。彼はしばらく飼育された後、今は仕事場の標本箱の中で眠っている。
子供が生まれた後は、お土産に持って帰ったら喜ぶだろうかと思ってカブトムシやクワガタを探しているのだが、小さいメスのクワガタがポツポツ見つかる程度。
もっと範囲を広げて積極的に探せば見つかるのかもしれないが、現場帰りは疲れているのでそんな余裕もない。
というわけで、ヤナギの下のドジョウならぬ、街灯の下の二匹目のクワガタはまだ見つかっていない。
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