趣味の昆虫採集(後編)
さて、筆者が趣味でやっている昆虫採集についてであるが、前回説明した以外にもいくつか理由がある。簡単にまとめると以下の五つ位に大きく分けられるのではないかと思う。
人によっては他に理由があるのかもしれないが、大体筆者はこんなものだ。
1.レッドリスト等(主に地方版)のための情報収集
2.分布情報の収集
3.研究のためのデータ収集
4.同定資料としての標本収集
5.単なるコレクション
1については、前回ある程度書いた通りである。ただ、地方版のレッドリスト改定のためには、本来なら自治体内の広範囲を、季節もしくは時期ごとに何度も調査することになるが、予算と時間の都合上実際にはそれは不可能である。
仕方がないので大学や博物館の研究者、そしてアマチュアの研究者の成果に頼らざるを得ない。
とはいえ、自分の研究もしくは収集の対象種ではない限り、最初からレッドリスト対象種を狙って採集に行くことは少ない。
自分の専門、もしくは別の対象種を目的とした採集を行った際――つまり、上記の2以降――に偶発的に見つけた、ということの方が多いのである。
◇
次に2の『分布情報の収集』であるが、これは自分のよく行く場所などの昆虫相――ある特定の範囲に生息する昆虫の群集――を調べて報告する例が挙げられる。
もしくは、すでにある自治体内の確認種リストに含まれていない種を見つけた場合、初記録種として報告することがある。また、記録例の少ない種では新産地として報告することもある。
とはいえ、これがなかなか難しく、珍しそうだなと感じた昆虫をある程度持って帰るか、可能であれば現地からネットで公開されている確認種リストにアクセスしてチェックする必要がある。
また、1のレッドリストとも関連するが、時に減少してゆく昆虫の推移を見届けるのも、半分ほどはこれに当てはまる。また逆に、温暖化などの影響により分布拡大したり、外国から新たに侵入してきた外来種の記録も同様である。
とはいえ、例えば以前書いたアキアカネの話のように、たくさんいた種が急に減ったという話になると、データが残っていないことも。
どこにでも普通にいる種を、通常はわざわざ採集して残したりはしないので、減る前も減った後も一見同じように標本が少ないということになる。
で、赤トンボは今も普通にいる、いやそのうちアキアカネだけが減った、本当に昔はたくさんいたのか、という話になると、知識のある人間の証言を信用してもらうしかなくなるのだ。
だからといって、とにかく標本を残そうというわけにもいかない。普通種はまだたくさんいるので、今後どれが減るというのがわからない以上、保管場所が足りなくなる。
他の項目も同じであるが、保管場所の確保も大きな問題である。
◇
3の『研究のためのデータ収集』についてであるが、研究というのは大学や博物館に所属する者だけの特権ではない。
大学卒業後、昆虫とは関係のない職を得たとしても、趣味として昆虫の採集・研究を続けている人は少なくない。
また、大学教授や博物館学芸員のような研究職の数は限られている。前任者が辞めるか、新しい施設や部署ができるとかしないと、募集はほとんどない。
博物館の学芸員を目指していたものの、そのうち断念したというか年齢制限により断念せざるを得なくなった、という人も筆者だけではないと思われる。
そんな筆者が、今では異世界で博物館を作るなどというラノベを投稿していたりするのだが、これも広義の異世界転生みたいなものではないだろうか。
それはさておき、以前新種の項で書いた筆者が新種記載した種もこれに該当する。繰り返しになるが、仕事で得たデータは研究には使えないので、必要な標本は仕事の合間を見て捕りに行かなければならない。
◇
次は4の『同定資料としての標本収集』についてである。
これだけだと何のことだかわからないかもしれないが、同定済み――ちゃんとした方法で種名が決定された――標本を手元に置いておくと、図鑑ではわかりにくい種が出た時に標本を図鑑の代わりに使うことができるということである。
図鑑では種が調べられないのか、と思われるだろうが、なかなかそれだけでは難しい。
新種が記載されたり、新たな外来種が記録されるたびに、図鑑に載っていない種は増えてゆく。それどころか、紙面や予算の都合により最初からカットされたり、記述が簡略化された種もいたりする。
今でこそ撮影機器の発達などに伴い、美麗な写真の載った図鑑が発行されるようになったが、昔の図鑑は写真が小さくて荒い。説明も簡単な文章しかない。
例えば、似たような種が複数いるグループの中で、Aという種だけが写真付きで掲載されていて、説明文の方に『BやCも本種に似るが、Bは○○が●●であることにより、Cは■■が▲▲であることによりAと区別できる』などと書いてあるだけで写真はなかったりする。しかも、写真は背面から撮影したものだけで、その区別点は裏から見ないとわからない、などということも少なくないのである。
だから、自分で採集した標本を専門家に同定依頼したり、大学や博物館の同定済み標本と比較したりして、手持ちの比較標本を増やしてゆくのである。
また、自分で文献などを使って時間とかけて同定した標本でもいい。次からは時間を短縮できる。
やっぱり実物が手元にある方が、同定作業だけではなく勉強という意味でもはるかに効率的なのである。
◇
5の『単なるコレクション』については、殺生を伴うこともあって、筆者は単に標本を増やすことはせず、個人的に集めた標本についてはできるだけ上記の1から4に当てはまるよう、最終的には博物館で保管されるようにしていきたいと考えている。
ただ、最近は仕事と家庭、そして執筆で色々と忙しいが、現在作業場で死蔵状態となっている標本も順次整理していかねばなるまい。
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