踊りの花形編

第5話 バレエシューズ

 あれでもない、これでもないとドロテがクローゼットの中のものを引っくり返している。


「姉さん、何探してるんだ?」


 足の踏み場を目で探しながら、部屋の入り口に立ってドミニクが尋ねるとドロテは手元を見ながら答えた。


「バレエシューズ」

「バレエシューズ?」


 思わず鸚鵡おうむ返しすると、彼女は顔をあげてじっと睨んだ。


「わざとじゃない」


 胸の前で両手を振ったが、彼女はわかったのかわかっていないのか、ふいと目を逸らすと「あげるのよ」と小さく言った。


「あげるって誰に?」

「エリザベスに」

「下の階に住んでるあの小さい女の子?」

「そう、今度バレエを始めるらしいんだけど、やっぱり色々お金かかるじゃない?私、昔バレエやってたから、そのお下がりあればあげようかなあって」

「ああ、1週間で辞めた……」


 ドロテがチュチュを投げてきたため、ドミニクは黙って口を噤んだ。


「……手伝おうか?」

「それは嬉しいわ」


 ドミニクはドロテの隣に座ってまだ開封されていない箱を開けだした。

 お昼を少し過ぎた頃、ようやく全ての箱を開け終えた。

 しかし、ドロテの探し物は見つからなかった。


「なんで見つかんないんだろう」


 ポツリと彼女が呟き、ドミニクもそれに同調しようとしてはたと気づく。


(待てよ……じいちゃんの遺品にバレエシューズがあったような)


 黙ってドミニクが立ち上がり自室へ戻っていくので、ドロテは驚いた。


「ちょっと、ドム?」


 彼女がドミニクの私室に着いたときには、既に箱をベッドの下から取り出して開けていた。

 彼は祖父の遺品の一部をモネの時代へトリップした原因を探るための貴重な手掛かりとして

 持って帰ってきていたのだ。


「急にどうしたの?」

「いや……あっ!!あった。これだよ」


 ドミニクはドロテに何かを掲げて見せた。


「これって……」

「バレエシューズだよ」


 少し煤汚れており、所々生地が薄破れている。

 しかし、かなり古いものと一見してわかるわりには綺麗な保存状態だった。


「なんでおじいちゃんがこれを?」


 ドロテがドミニクの手にあるバレエシューズをつつきながら不思議そうに言う。


「それは俺もわからない。けど、この間整理してるときに見つけたから……」


 ドミニクがそう言って話していると、急にバレエシューズが輝き始めた。


「何これ……」


 ドロテの顔が恐怖で固まる。

 反してドミニクは嬉々としてその現象を食い入るように見た。


「姉さん、これからどこかに飛ばされるよ!」

「飛ばされるって何!?どこへ!?」

「わからない!!けど、俺に捕まって」


 伸ばされたドミニクの手をドロテは訳がわからないまましがみつく。

 固く目を瞑って震える姉の肩を抱いて、ドミニクもゆっくりと目を閉じた。

 すると、前回とは違いゆっくりと意識が遠退いていく感覚を感じることができた彼だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます