第65話 調査結果⑥
「なあ竜一、最近ユメちゃんとは会ったか?」
海野が周りに聞こえないよう、小さな声でささやく。
「ああ、この間も会ったよ」
「そうか、俺のこと何か言ってなかったか?」
海野に会いたくないと言っていたことは黙っておこう。
「いや、特には」
「・・・そうか」
この様子だと海野はまだユメちゃんに未練があるらしい。いつも堂々としていて何でもできる海野のこういった姿は珍しい。かわいそうだが、親近感が湧く。いや、それよりも面白い。あの海野のダサいところが見られるなんてな。
「そういえば海野は、あれから彼女はできてないのか」
様子を察したのか、空がからかうように会話に入る。海野は天井を見て両手を挙げる。
「さっぱりだ」
ユメちゃんと別れたのがもう3年も前だが、それ以来誰とも付き合っていないらしい。
「なあなあ、私の話も聞いてよ」
恋愛の話を察してか、吉田美穂が割って入る。
「この間もまた彼氏にフラれたんだけど!」
「またー!?美穂は変わらないなあ」
知恵が驚いた声をあげる。またと言うからには、昔からよくあったのだろうか。
「あんた、大学卒業してからの1年でもう何人目よ」
二宮明里が呆れた顔で吉田を指でさす。
「んー。3人。今回は半年も続いたのになあ」
てことはその前は半年で2人かい。俺には縁のない話すぎて全く感覚がわからない。
* * *
「で、江戸川区の葛西水龍も怪我をしたからいなくなってたってことでいいの?」
二宮がいきなり結論を言わせようとする。
「まあそれはそうなんだけどさ、落石事故でも8年なんだから、100年もいなかったのは何って話だよな」
海野がうまく話を誘導してくれる。
「そうなんだ。葛西水龍も怪我をしていたことは明らかだ。邪竜と戦ったんだからな。でも100年も帰って来なかった。それは何故か」
みんなが静かに答えを待つ。もうわかっているのだろう。
「そう、邪竜が封印されていたからだ。竜宮家に封印された邪竜が邪魔して帰って来られなかったんだ。最初に話した、邪竜が封印されているところから円形にドラゴンが住めない地域になるって話だな。江戸川区全域がドラゴンの住めない地域になっていたから、帰って来られなかったんだ」
「ちなみに帰って来られない間は海の中で冬眠みたいに眠ってたんじゃないかって予想だ。これは俺たちじゃなくて田村教授の仮説だけどな」
「へー、ドラゴンって水の中でも苦しくないのかな」
「それはドラゴンっていうより、葛西水龍だからだと思う。水の中で生活する水龍だから、冬眠するのも海の中だったんじゃないか」
「あれ?」
二宮がポカンとした顔をする。
「これって、もしかして全部答え出た?」
これから結論を格好良く言おうというところなのだから空気を読んでほしい。だがその通りだ。
「なぜ江戸川区にはドラゴンがいないのか」
知恵と、海野と、目を合わせる。
「それは、江戸川区の親龍である葛西水龍が邪竜と戦って傷つき、眠りについたため。そして、封印された邪竜が邪魔をして復活できなかったためだ」
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