第74話 観念
「どういうつもりなのかな?」
神崎が出会い頭に聞いてきたのはそんな台詞だった。
辺りは神崎の存在に驚いている者もいた。教室の外には神崎を追ってきたかのような生徒がこちらを窺っている様子も見えた。
なぜ俺の所に来たのか、それは大体察しがつく。だが、今はここであまり事を荒立てたくない。
「…何がだ?」
俺は敢えてそんな回答をした。これなら、神崎も今はここでそんな話したくはないのだと察してくれるだろう。
「…もういいんだよ、君が何をしようが僕は口出ししないつもりさ」
意外な反応…でもないのか。だが、何か言うこともないのか…それならそれでいいが。
「ああ…そうしてくれ」
「…でも、僕は自分のしたいようにはするよ」
…?
俺が少し眉を顰めると、神崎は話を続けた。
「ん?わからないのか?僕は意地でも君を辞めさせないつもりだよ」
「…どうしてそこまで…。もう、神崎は俺がいようがいまいが構わないだろう」
「そうでもないさ…。いるに越したことはない。寧ろいて欲しい、僕がそう望んでいるだけさ。…で、わかるかな?僕のしたいことが」
まさか、こいつは…。
「そう、もう自分でも気がついたかと思うが、僕の人望でありったけの票が君に入るだろう。勝ち目…いや、君の考えている勝算なんてどこにもないよ。実は先程の君の様子を見ていたが…あんなことをしていても意味はないよ、自分の評判を無駄に下げるだけさ」
くっ…そうなってくると本当に無駄な気がしてくる。さっきまでのような地道なことをしたところで意味がなさそうだ。
「君はもう生徒会からは逃れてはいけない。いなくなったら悲しむ人だっているんだ、それを自覚してほしい。…本当は自分でも抜けたくはないと思っているはずさ」
それは…どうなのだろうか。
今回は自分から辞めたいという意思があったわけでもないが…。
「ともかくもう諦めた方がいい、献身してまで他人を思いやるとか君らしくないよ。佐野という生徒に君には何の思い入れもないはずだろう?…佐野の気持ちも思えば君のしたいこともわからなくはないが…君がその席を譲る必要なんてない」
俺は何も言い返すこともなかった。
そして、神崎はその場から離れて教室から出て行こうかとした時にもう一度こちらを振り向いて一言だけ言ってその場を去った。
「そういうことだから…今日も待っているよ、生徒会室でね」
俺らしくない…か。確かにその通りだな…。
どうして親しくもない、知り合って間もない佐野にここまで本気になってしまっているのだろうか…自分でもわからない。
これはただ、自分が辞めたいだけだとかそういうことでもないだろう。
単に、あの佐野という人物に対して何かしてあげたいと思っている部分がある。…俺も、会長のお人好しに感化されてしまったのかもな…。
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