第69話 準備 〜2〜
「…見ればわかる。…それより、どうしてこんな目立つ所に設置したんだよ…」
「何を言っているんですか、目立つ所に置かなければ意味はないでしょう」
それはそうだが…。
「設置してからこのかた、誰一人として票は入れてませんでしたよ。私がどれだけ演説しようと、見向きもせず聞く耳も持たずにただ笑われるのみでした」
それはそうだろう…。もう、諦めた方がいいとも思える。
「ここにいて、私は二人の人物に声をかけられました。一人は先生、何故このようなことをしているのだと問われました。事情を説明した所、双方了承した上ならばやってもいいとのことで許可は得ました」
そうなのか…別に問題はないんだな…。
「そしてもう一人、それは生徒会長…花城さんです」
会長と…話したのか。
「花城さんから何をしているのかと問われましたよ。…影井さん、あなたどうやら事情を説明していなかったようじゃないですか。何故ですか、てっきり私はあなたから説明していると思っていたのです、なので説明する手間が増えたじゃないですか」
それは…言う必要はないと考えていた。
それに、言いづらかったのだ。事が終わってからの方が、自然に承諾してもらえるとも考えていたのだ。
「事情を説明していくうちに、花城さんはとても悲しそうな顔をしていきました。私自身がしていることが悪のように感じましたよ。…あなた、相当あの人に好かれていたようですね」
好かれて…なのか…。
「それでも事情は汲んでくれましたよ。あの人…本当に優しいですからね。私のことも、もちろん覚えていてくれていました。だから、その気持ちも受け取ってくれたのでしょうね」
そうか…。
「なので、許可は一応得ましたよ。後は…しっかりと話してくださいよ、あなたの口からね」
…。
「…私は、決して諦めませんよ!現時点ならば、差はありません。まだまだわからない…」
「…とりあえず、場所は変えないか?ここは…さすがに目立ちすぎる」
「…嫌なのですか?」
「…ああ」
「…わかりました。ならば…生徒会室の前とかどうですか?」
生徒会室前か…。会長もいるすぐ側に置くのもどうかとは思うが…。
「…ああ、そこがいい」
「はい、ではそこへ移動させておきます」
「あ、その人ですかぁ!」
その声のする方を見ると、そこには佐野の方を指差す霧島がいた。
さっきから寄ってくる生徒にはカードを配っていたが、やっと抜け出したようにしてこちらまで来たのだ。
霧島は俺のすぐ側まで来て、佐野の方を見ていた。
「霧島朱鳥…!」
顔つきを変えた佐野は霧島を睨むようにして見ていた。
「な…なんですか!そんな怖い顔をして!…それより、あなた誰なんですか…?」
そんな発言をした霧島に、佐野は一層目つきを鋭く変えて、こちらへと近寄ってきた。
霧島はそれから逃げるように俺の背後に回り、俺の腕を左手で握って隠れるようにして身を潜めた。
「きゃっ!なんですかこの人…怖いんですけど」
反射的に、俺はその掴まれていたその手を振り払うと、霧島はむすっとした顔でこちらを見ていた。
「お前、覚えてないのか…佐野のこと」
「えっ?この人ですか?」
俺の背後から佐野のことを真剣な顔をして見ていた。
「ん〜…私のファンですか!」
その発言に落胆したように佐野は強張った表情を緩めて肩を落とした。さすがに同情する。
「佐野優生!生徒会の選挙に立候補した一人だ!覚えてないのか!」
佐野はいつもとは違う感じの怒鳴り口調だった。
「あ、あはは…覚えてます!覚えてるに決まっているじゃないですか!」
再度睨みつける佐野の視線から霧島は、また俺の背に隠れた。
「あなた…それはなんですか」
佐野は霧島の右手に持っていたカードに目を向けていた。
「これですか?これはゲームに参加してもらう人に配ってるカードですよ」
霧島は俺の背後から前に来て、カードを佐野の前に差し出した。
「そうだ!あなたも参加しませんか!一枚どうぞ!ルールはですね…」
佐野は、その差し出されたカードを持っていた手を左手で払うようにした。
その拍子に、カードが廊下へと散らばっていた。
「あっ!ひ、ひどーい!何するんですかー!」
「やる訳ないでしょう!…生徒会という立場を利用して…こんな下らないことをやるなんて…」
その騒ぎに嗅ぎつけて、周りには生徒が集まって、生徒達はカードを拾ってくれていた。
「大丈夫ですか、霧島さん」
「何かされたの?」
「この男がやったんだ、俺は見ていた!」
そして、周りの生徒達の視線は佐野に向けられていた。
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